手術などで損傷を受けた陰茎海綿体神経の回復



前立腺術後の障害された陰茎海綿体神経の再生についての報告

 第21回日本性機能学会東部総会での報告です。
市立室蘭総合病院泌尿器科、加藤隆一先生等の報告です。
多少の解説を加えながらご紹介いたします。

前立腺手術後に、程度の差はあれ、勃起不全を後遺症として生じます。 発症しうる勃起不全は、程度の差はあれ、患者様のQOLを著しく低下させえます。 前立腺手術後の、勃起不全の発症を抑制する事は、重大な課題としてとらえられ、様々な研究報告がなされています。

では、なぜ術後に勃起不全を生じるのでしょうか?
前立腺手術後に勃起不全を生じるメカニズムを理解しなければ、対応ができません。
ここでは、基礎的研究も含め、現在考えうる、術後に生じる勃起不全の原因、治療法が解説されました。

前立腺手術後の勃起不全の主たる原因は、陰茎海綿体神経の損傷が挙げられます。
前立腺全摘除術後の陰茎海綿体神経損傷に伴う勃起不全に関しては、そのメカニズム、再生に関して多くの基礎研究がなされています。
人間を直接対象にして起訴研究をすることは困難ななため、これらは動物を対象としておりますが、人間にも当てはまるだろう有益なデータも得られています。
Carrierらは、陰茎海綿体神経切断により、そのマーカーのnNOSが減少し、長期的にも増加は無いことを報告し(Carrier,J Urol,1995)、 その後、katoらは切断された陰茎海綿体神経自体の軸索再生は困難で、健常側のsproutingが機能再生に重要と報告(Kato,BrainRes,2003)しています。
残念ながら、一度損傷した陰茎海綿体神経の再生は、現在のところ難しい状況です。
そうなると、当然のことながら、如何に陰茎海綿体神経を温存するかが重要になります。

陰茎海綿体神経が損傷した場合の影響を補足いたします。
神経からでる勃起の命令がなくなるのは容易に想像できます。
これに加え、神経が損傷すると、支配領域の組織が”やせ細る”場合がございます。
海綿体神経の損傷により、陰茎海綿体の虚血・低酸素状態が生じ、内皮や平滑筋のアポトーシス(細胞死とお考えください)が起き、これらも勃起不全の改善を困難にします。
従って、海綿体の血流維持や構造的損傷も生じうる訳で、この予防も大切です。
やはりというか、当然ですが、神経や血流を可能な限り温存することが勃起能維持に重要です(Bella,Asian J Androl,2008)。

陰茎海綿体平滑筋の機能温存という点では、PDE5阻害剤(Mulhall,J Sex Med,2008)やSonic hedgehogによる効果(Bon。,JSexMed,2010)なども紹介されている。
術後のリハビリテーションとして、バイアグラシルデナフィル)やシアリスタダラフィル)が用いられ、有効であることも報告が見受けられます。

陰茎海綿体神経自体の再生促進という点では、FK506(Lagoda,J Sex Med,2009)などのimmunophilins、neurturin(Kato,GeneTher,2009)などの神経栄養因子、 erythropoietin(Allaf;JUrol,2005)、幹細胞stemcell(Bochinski,BJU Int,2004)などの効果が報告されている。
また損傷した軸索そのものを再建させるという観点では、導管(Hisasue,J Urol,2005)やゲルシート(Matsuura,Urology,2006)の使用、 静脈(Hu,J Sex Med,2010)などのグラフトも報告されている。

まだまだ、十分な治療法が存在しないのが事実です。
陰茎海綿体神経の走行にも、個人差が見受けられ、個人各々で、手術する上で、注意点が異なってきます。
術後の薬物によるリハビリテーションも注目されています。私たちのホームページでも、何度か紹介させて頂いております。
術後の勃起不全の発症は、いままさに注目されている事柄です。 今後、様々な知見が蓄積され、良い治療法が見つかる事に期待しましょう。


勃起不全は池袋スカイクリニック