バイアグラが胎盤血流を改善する可能性



バイアグラは胎盤血流を改善することにより子宮内胎児発育不全を改善する可能性がある

バイアグラは、勃起不全改善薬として有名ですが、その成分のシルデナフィルsildenafilは、 様々な可能性を秘めた薬剤でもあります。
今回、子宮内胎児発育遅延に有効である可能性を指摘した報告がございました。 解説を加えながら、一部ご紹介したいと考えます。

胎児奇形を除くと、子宮内胎児発育遅延は、周産期胎児死亡の最大の原因となります。 子宮内胎児発育遅延では、子癇で認められるのと同様の血管内皮異常が存在し、 母体側の動脈の血管抵抗の上昇に関連が有るとされています。
周産期異常は、子宮血流循環における高血管抵抗が影響し、周産期後半の1/3で、これが改善された場合、 周産期のトラブルも改善するとされています。

正常妊娠では、栄養膜の細胞から一酸化窒素NOが産生されます。 一酸化窒素NOは、胎児-胎盤の血液循環における血管拡張作用を示し、胎児への酸素や栄養の供給を維持改善します。 一酸化窒素NOは、動脈を拡張し、血小板凝集を抑制します。
このことから、一酸化窒素NOを増加させるような薬剤は、胎児の発育障害に対する、有効な治療法になり得る可能性があります。 子宮内胎児発育遅延の場合、臍帯の血管内皮細胞は、慢性的な低酸素状態に対して反応せず、 また、胎児-胎盤の血管収縮を来す可能性があります。

循環中のホスホジエステラーゼは、子癇前症において増加していると言われております。 また、ホスホジエステラーゼを阻害する事によって、子宮血管の緊張が和らぐことも指摘されています。
バイアグラ(シルデナフィル)は、ホスホジエステラーゼ5阻害剤です。 皆さんご存知のように、勃起不全治療に使用される薬剤です。 cGMPの分解を抑制することによって、陰茎血管の弛緩を引き起こします。
その他にも、子宮血流を増加させ、エストロゲンによる血管拡張作用を増強する事が示されています。
受精時において女性膣内に投与した所、母体、児ともに有害な影響を与えず、また、 膣内への投与によって、ナチュラルキラー細胞活性と子宮内膜厚が変化し、 受精率に好影響を及ぼす可能性が有るため、不妊治療治療(受精困難)の選択肢の一つになる可能性も指摘されています。
バイアグラ(シルデナフィル)の静脈投与は、胎便吸引症候群における肺血管抵抗を減弱させるとの報告もあります。
豚を用いた動物実験では、低用量のバイアグラは、分娩時における胎児仮死を減少させ、高用量のバイアグラは、 胎児体重を1.5倍に増加させたとしています。
母体の肺高血圧症に対しバイアグラ(シルデナフィル)での治療は、胎児の成長を促進させることも知られています。
妊娠中のバイアグラの使用は、正常妊娠、子宮内発育遅延妊娠問わず、子宮筋~内膜の血管の収縮を抑制します。
このことから、妊娠中のホスホジエステラーゼ阻害剤の使用は、安全に子宮血流を増加させられると考えられます。

この報告は、子宮内胎児遅延の妊婦に対しバイアグラを投与する事によって血管拡張を試み、 胎盤血流を増加させ得るか、ドップラー法を用いた超音波検査で確認しようとするものです。
子宮及び胎盤の動脈の血流低下と血管抵抗の増大は、胎盤血流が減少していることを示唆しますが、 これは、非侵襲的なドップラー法を用いた超音波検査で確認することが出来ます。
子宮内発育遅延児の脳循環は、血行動態の悪化に伴って、明確な潅流領域によって変化を示します。 前頭葉、大脳辺縁系、海馬領域の障害は、血液供給の減少と関連が有ります。 低酸素血症においては、血流を重要部位に集約し、酸素供給を維持する仕組みが存在します。 これもまた、ドップラー法による超音波検査で観察できます。
この研究報告は、バイアグラの胎盤血流と胎児脳血流への影響を調べています。
周産期後半の1/3の期間におけるを血管抵抗を正常化する事が、良い成果をもたらすと考えられ、 最終的には、周産期異常の改善に繋げたいとしています。

イランで行われた、二重盲検プラセボコントロール研究です。
妊娠24-37週の子宮内胎児発育遅延例を対象とし、バイアグラまたはプラセボを服用して頂き、 超音波検査で、評価しています。
バイアグラ(シルデナフィル)は、妊娠中の安全基準のカテゴリーBに分類されています。
一般的には、25-50mgを使用しますが、妊娠中は循環血漿が増加している事を考慮し、 服薬量を50mgとしています。
服薬前と服薬後2時間において、カラードップラー法超音波検査を用いて、 臍帯血流と胎児の中大脳動脈血流を評価しています。
59例の妊婦が登録されましたが、試験を終了したのは41例です。 バイアグラ群とプラセボ群間の妊婦の特徴に差は認められておりません。 全体の6例に羊水過少症、3例に高血圧、1例に死産を認めています。 38例は非対称性の発育遅延であり、3例は対称性の発育遅延でした。 (対称性発育遅延の3例は、すべて対照群に含まれていました)
バイアグラ群では、臍帯血流は改善し、血管抵抗の減弱が観察され、中大脳動脈の血流も、同様に増加しています。 これに対し対照群では、いずれも認められておりません。

この報告は、子宮内胎児発育遅延における胎盤血流の変化を評価したもので、 バイアグラ50mgの服用は、胎盤-胎児間と中大脳動脈の血流を有意に増加させています。
この研究の根幹には、子癇と子宮内胎児発育遅延との間に、胎盤の血流低下と言う、 共通した病態生理があるとする仮定があります。
今回の報告では、24週時点で正常血流、若しくは、後に正常化した群と比較し、 血流が低下した群では、児の体重が少なかったとも報告しています。
胎盤血流を正常化させようとする試みは、出生体重を増加させることにつながる可能性があります。 胎盤機能不全による児の発育不全は、一連の代謝の流れが上手く行っておらず、酸素の利用も十分でない結果とされます。 栄養素の取り込みは、児の成長には必須です。 十分な発育には十分な胎盤血流が必要で、血流が何らかの原因で不足した場合は、発育遅延の原因となります。
バイアグラは、血管拡張剤と考えると、血流を正常化することにより、子宮内発育遅延や子癇前症に対する有効な代替治療になり得るかもしれません。

今回の研究報告以上の使用量によっても、バイアグラの催奇形性を証明する報告はなく、 子癇前症に対しても、1回20~80mg1日3回服用され、十分認容性もあるとされています。 そのため、低下した胎盤血流の増加に安全に使用できると思われます。

バイアグラの胎盤透過性に関する研究報告は、今のところありません。
比較的分子量が小さいため、胎盤を透過し、胎盤-胎児間を循環し、作用を及ぼしている可能性もあります。

バイアグラ使用における副作用が一部認められておりますが、ED治療薬として使用された場合と著変なく、十分認容できるものと考えられます。

いずれの機序にせよ、興味深い結果が得られております。
長期使用によるデータを、是非、知りたいところです。


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