パロキセチンとシアリスの併用による早漏症治療



パロキセチン(パキシル)にシアリスを追加した場合の射精遅延効果

男性の性的な悩みである勃起不全は、広く知られ、有効な治療薬が存在いたします。
早漏症は、勃起不全同様、多くの男性が悩んでおり、有効な治療法が存在しますが、まだまだ認知されておりません。
そこで、早漏症治療に関する報告があったので、解説しようと思います。

まず、早漏症とはですが、女性膣への挿入前後の僅かな刺激によって、射精に至ってしまい、男性自身およびパートナーである女性の満足が得られない状態を指します。 男性は、射精のコントロールができない状態であり、sexに対する不安感や悩みに苛まれることになります。

女性膣にペニスを挿入、その後、どの程度で射精に至ってしまうのか、ストップウォッチなどで測定するのが、最も簡単で、必要十分な検査法です。 この方法によって、早漏症の診断は、感度、特異度ともに80%とされております。
世界的な共通の診断基準は定まっておりません。 射精まで1分以内とするものや、数分以内とするものもあります。
重要なのは、男性およびパートナーの女性が十分満足を得ているかだと思います。

早漏症は、性機能障害のなかで、EDと共に患者数が最も多く、40歳以下の男性の、およそ30%が、早漏症であるとも言われております。
人種的には、黒人やヒスパニック、ムスリム人に多いとされます。
生まれ持って早漏症である場合もございますし、後天的に何らかの原因で発症することもあります。
早漏症を治療するにあたって、原因を考えていくことが重要です。
基礎疾患として何らかの慢性疾患が存在する場合もありますし、ホルモン内分泌疾患、自律神経に影響を及ぼす疾患、ペイロニー病、前立腺炎などが隠れていないか検討し、もし、それが存在する場合は、その治療を優先する場合もあります。

早漏症の治療の中心は、薬による治療と、行動療法および、その併用療法です。
行動療法としては、スクイージング法や、スタート・ストップ法、ケーゲルエクササイズなどが挙げられますが、ある程度の手間と訓練が必要なものです。
薬物療法として、本来は抗うつ薬であるセロトニン再吸収阻害剤(SSIR)が古くから使用されていました。
代表的な薬剤名を挙げると、シタロプラム、セルタリン、パロキセチン(パキシル)、フルオキセチンです。 (ちなみに早漏症治療薬として、唯一認可されているプリリジー(ダポキセチン:本邦未認可)は、このセロトニン再吸収阻害剤(SSIR)に属する薬剤です。)
その他にも、バイアグラレビトラ、シアリスなどのPDE5阻害剤に属するED治療薬や、局所麻酔剤であるリドカインや、その他鎮痛剤であるトラマドール(トラマール)なども、使用されています。

セロトニン再吸収阻害剤(SSIR)に属する薬剤の中では、効果、実績ともにパロキセチン(パキシル)が豊富です。
同じセロトニン再吸収阻害剤(SSIR)に属する薬剤であっても、フルボキサミン(デプロメール)は、射精遅延効果は、弱めになります。
パロキセチン(パキシル)による報告が多いため、本邦にいて、性機能障害を診療する医療機関で、早漏症治療薬といえば、パロキセチン(パキシル)を処方するケースが多くなっています。 実際、パロキセチン(パキシル)の効果は臨床でも経験済みですが、セックス前のみの頓用では、効果に限りがあり、より確実な強力な効果を希望する場合は、毎日の服用が推奨されております。 服薬数日から効果が認められ、1-2週間後にピークに達します。
副作用は、下痢、吐き気、眠気、倦怠感、口腔内乾燥、性欲減退、勃起不全などが一般的ですが、2-3週間程度で軽減するとされます。 性機能障害治療において、性欲減退、EDが生じうることはマイナス点です。 セロトニン再吸収阻害剤(SSIR)は、薬剤性EDの代表でもあります。
また、セロトニン再吸収阻害剤(SSIR)の服用にあたり、躁状態(興奮状態)が惹起される場合があります。 犯罪との関連も指摘されることもございます。
よって、長期に渡る治療は避けたいところではあります。
また、多くの男性は、射精遅延効果に満足を得ているとされていますが、治療の継続率は、高くありません。

2014年に行われた、17歳から49歳までの男性患者100人を対象とした、パロキセチン(パキシル)とシアリスの併用による早漏症の治療報告があります。
被験者は、すべて婚姻しており、生まれ持っての早漏症と診断され、射精まで1.5分以内、この被験者を、sexの4時間前にパロキセチン(パキシル)10mg(必要があれば20mgまで増量可能)を服用する群と、 さらにここにシアリス10mgをsexの1時間前に追加服用する2グループに分けて女性の膣内に挿入から射精までの所要時間と、 性行為に対する満足度をIIEFスコアで評価検討されています。 ED例は除外対象となっております。

3ヶ月後および6ヶ月後の評価では、パロキセチン(パキシル)単独群は、射精までの時間が4.5±1.5分、4.8±1分、シアリス併用群が、 5±2.4分、5.3±2分と両軍共に延長、セックスの満足度に関しても、両群とも改善しておりますが、統計学的に両群間で有意差は認められておりません。
副作用は、シアリス併用群における顔の紅潮が特徴的です。 ED治療薬の一般的な副作用の一つです。
その他、頭痛、吐き気や下痢などの消化器症状、性欲減退、遅漏などの副作用は、両群間で差がありません。
この報告では、シアリスの併用による上乗せ効果は認められなかったことになります。

この報告以外に、いわゆるバイアグラやレビトラ、シアリスなどのED治療薬の早漏症に対する治療効果に関する報告が散見れます。
ED治療薬の射精遅延効果に関しては、勃起力の増強が、自信の回復につながり、また、僅かな性的な興奮で勃起が得られるが、 そこから射精に至るには大きな興奮を得るのが必要とされるため、これが早漏の改善効果機序である可能性が指摘されています。
しかし、実際のところは、ED治療薬の射精遅延効果のメカニズムは、想像の域を脱していません。

もっとも古くから使用されているED治療薬はバイアグラ(シルデナフィル)になりますが、バイアグラによる射精遅延効果を検討した報告もございます。 報告によって結果は様々です。 射精遅延効果は認めないものの、満足度や自信の回復や、次の勃起までの不応期の短縮認めるとする報告、バイアグラ単独の服用で射精まで1分であったのが15分と延長したとする報告、パロキセチン(パキシル)単独療法よりバイアグラを併用したほうが効果的であったなどとする報告など、結果はまちまちです。

様々な報告がございますが、重要なのは、満足度だと思います。
射精遅延効果に関しては、ゆっくり落ち着いていた5分と、熱く激しい5分とでは、全く意味するものが異なります。 ED治療薬を使用した場合は、ほとんどの場合、満足度の向上が得られております。
上記の報告では、満足度に関しては、パロキセチン(パキシル)単独群、シアリス併用群と統計学的に差が認められておりません。
この報告の試験デザインでは、シアリスは性行為1時間前で服用し、10mgと低容量を使用しています。 血中濃度のピークが服薬後3-4時間である事、世界的にもシアリスは20mgを服用している方が大多数であることを考えると、ここを調整するだけで、違った結果が得られたかもしれません。

当院としては、まず、勃起力に自信がない方は、ED治療薬の服用が前提になると考えます。 ED治療薬によって射精遅延効果を実感される方は多数いらっしゃいます。
早漏症治療薬で満足が得られない方は、ED治療薬の併用を検討いたします。
また、EDと早漏症は相反するように見えて、実のところ合併している方も多くいます。 早漏症を治療することによって、EDが顕在化する例もございます。
早漏症治療薬の多くは、勃起力に関してはマイナスに作用いたします(作用しない薬剤もあります)。 パロキセチン(パキシル)、ダポキセチン(プリリジー:本邦未認可)が属するセロトニン再吸収阻害剤もそうです。


Comparison Between Tadalafil Plus Paroxetine and Paroxetine Alone in the Treatment of Premature Ejaculation.
Nephrourol Mon. 2016 Jan; 8(1): e32286.


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