ユリーフ(シロドシン)による早漏症治療の可能性



ユリーフ(シロドシン)による早漏症治療

早漏の悩みは、当院においても、しばしば相談を受ける男性性機能障害の代表ともいえる疾患です。
早漏症の定義自体は、国際的に定まっておりませんが、およそ20~30%の男性が早漏で悩んでいるとされ、女性膣内に男性のペニスを挿入後1分に満たずに射精に至る男性は1~3%いるとも言われております。
早漏症の存在は、男性にとって、苦痛であり、セックスにたいする自信を失わせるものであり、生活の質を大きく低下させるものです。

早漏症の治療は、パロキセチン(パキシル)を代表とするセロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)に属する抗うつ薬や、局所麻酔剤、認知行動療法が行われてきました。
現在、早漏症治療薬として世界で唯一認可されているダポキセチン(プリリジー:本邦未認可)がこざいますが、これはセロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)しています。
ダポキセチン(プリリジー)の効果、安全性に関する報告によれば、副作用は十分許容できるものとされます。
しかし、セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)に共通の副作用として、頭痛や吐き気、倦怠感、眠気などがしばしば認められますが、やはり、ダポキセチン(プリリジー)においても同様です。
最近、問題にされている副作用は、セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)による躁転化(鬱の逆)、自殺企図です。 世界的には、犯罪との関連も指摘されており、一部の銃乱射事件やハイジャック事件に関連しているのではないかともされております。
また、セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)は、代表的な薬剤性EDの原因薬剤でありますので、性欲減退や勃起不全を惹起する可能性もございます。 ダポキセチン(プリリジー)は、本邦未認可の薬剤であり、国内で入手使用するには、入手経路、費用の問題や、副作用が生じた場合の、医薬品副作用保障制度が適応されないなど、種々の問題があります。
このことから、よりよい治療法、様々な選択肢が求められています。

α遮断薬(アルファブロッカー)と呼ばれる、主に前立腺肥大症、下部尿路症状(LUTS)に対する治療薬の射精遅延効果が注目されております。
このアルファブロッカーと呼ばれる薬剤にも副作用がございます。 主な副作用は、立ちくらみ(起立性低血圧)と射精障害です。
射精障害の範疇にある早漏症の治療に、射精障害を来す薬剤を使用する事に疑問を感じる方もいらっしゃると思いますが、このα遮断薬の副作用を逆手に取った治療法とお考えください。
LUTS下部尿路症状、前立腺肥大症は、高齢男性が罹患する疾患であり、その治療薬は、より安全であることが要求され、実際に、臨床でも軽微なものであることが、確認できております。
α遮断薬は各種ございますが、その中でも、特にユリーフ(シロドシン)は、以前より、射精を抑制する事が知られておりました。
この作用の違いは、ユリーフ(シロドシン)の高いα1A受容体選択制によるものと推測されています。

ユリーフ(シロドシン)の早漏症に対する効果を検討した報告がございますので、以下に、解説を加えながら、一部ご紹介したいと思います。
被験者は平均54.2歳(32-72歳)、早漏症の病歴は平均9.1年(5-15年)、一部の被験者は、EDを合併しており、バイアグラ、レビトラ、シアリスなどのいわゆるED治療薬を使用。 いずれの被験者も、早漏症治療前は、十分な勃起力は確保されている状態です。
ユリーフ(シロドシン)4mgを性行為の2時間前に服用し、EDを合併している場合は、必要に応じて、ED治療薬(バイアグラ、レビトラ、シアリス)を併用しています。
主だった評価項目は、女性膣内にペニスを挿入後から射精に至る時間をストップウォッチで測定、また、性行為の満足度、射精のコントロール、性行為の苦痛感、パートナーとの関係を効果の指標としています。

結果は、女性膣内にペニスを挿入し射精に至るまでの時間は、平均3.4分から10.1分へ延長を認めています。
満足度調査では、75%の方が”大いに満足~満足”、25%の方が”やや満足”となっています。
射精のコントロールに関しては、全ての被験者が”非常に良い~良い”と回答、性行為の苦痛感は、治療前は全ての被験者が中等度以上実感されていたのが”ごく軽度”に改善、パートナーとの関係については、他の評価項目と異なり、治療前後で差が認められていません。
副作用ですが、射精時の違和感を覚える方が、多数見受けられておりますが、これに関しては、”問題ない~やや気になる”との回答がほとんどで、容認できるものとされています。
精液量は、25%の方がオーガズム時の射出なし、37.5%の方に精液量の減少を認めています。ただ、これに関しても、全ての被験者が”ほぼ問題ない~やや気になる”と回答していることから、得られるメリットの方が大きいと考えられます。

以上のように、射精時に違和感を認めるものの、射精遅延によるメリットがそれを上回ると言う結果になっています。
多くの早漏症を対象にした治療報告では、ED例が除外されている場合がほとんどなのですが、本報告では、ED合併例も対象とされており、 バイアグラ、レビトラ、シアリス等のED治療薬も必要に応じて服用可能とされていろところが、ユニークであると考えられます。
例えば、パロキセチン(パキシル)やダポキセチン(プリリジー)などのセロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)は、共通として、副作用で性欲減退や勃起不全が指摘されているので、ED合併例には、適した薬剤であるとは言えません。
EDと早漏症の合併は、臨床上、良く経験されることです。
さらに、下部尿路症状LUTSを認める場合は、アルファブロッカーによる治療は、EDの改善効果も期待できるとされています。
ED合併早漏症治療の可能性を示した報告とも言えます。

ユリーフ(シロドシン)の射精遅延効果の秘密は、α1A受容体のブロックにあります。
このα1A受容体は人間の精嚢に広く分布しています。
精嚢とは、前立腺の後方に位置する精のう液を分泌する器官で、精嚢液は、精液の7割を占めています。
射精の引き金として、この精嚢液の射出が重要になりますが、これをブロックすることが、射精遅延効果に結びついているのではないかとしています。

全身性の副作用は、LUTS下部尿路症状、前立腺肥大症などで治療経験を踏まえても、ほぼ問題ない、非常に安全性の高い薬剤です。
立ちくらみ(起立性低血圧)は、α1B受容体を遮断する事で発現する事が多いため、α1A受容体に選択制の強いユリーフ(シロドシン)では、フリバス(ナフトピジル)、ハルナール(タムスロシン)などと比較して、少ない印象です。
オーガズム時、射精時の違和感、精液量の減少を認めるものの、全身性の副作用はほとんど認めないため、安全性の高い薬剤であると言えます。

射精遅延効果に関しても、およそ3倍と、ダポキセチン(プリリジー)やパロキセチン(パキシル)などと比較しても遜色ないものです。
射精時の違和感、精液量の減少は、可逆性のものであり、服用を中断することで改善いたします。
連日の使用で、これらの発現頻度は増加いたしますが、基本的には、セックス前に一回服用するだけ(頓用)となりますので、十分許容できるものであると考えます。

以上をまとめると、ユリーフ(シロドシン)の射精時の違和感、精液量の減少を容認できる方には、早漏症治療の選択肢の一つになりえます。
従来のセロトニン再取り込み阻害剤(パロキセチン(パキシル)やダポキセチン(プリリジー))で、 吐き気や下痢、頭痛、眠気、性欲減退や勃起不全などの副作用が認められる方、躁転化や自殺企図などの心配を持たれる方は、試していただくのが良いと思います。
また、EDを合併されている方も、良い適応となる可能性があります。
逆に、精液量が減少するため、挙児希望の方や、精液の射出による満足感を希望の方には不適当となります。

本邦で認可されている早漏症治療薬は存在しません。
ユリーフ(シロドシン)、パロキセチン(パキシル)、ダポキセチン(プリリジー)も然りです。
いずれの薬剤も、早漏症で使用する場合は、適応が使用であったり、薬剤副作用救済制度の適応外である可能性があります。
経験豊富な医師からの十分な説明を受け、納得したうえで、処方を受けて下さい。
選択肢が多い事は、患者様のメリットにつながると考えます。
メリット、デメリットを把握したうえで、患者様に治療法を提案することが医師の仕事の一つでもあります。

従来の早漏症治療を否定するものではありませんが、 プリリジーの効果不十分例、副作用での離脱例に対して、ユリーフが効果的であった報告もございます。 繰り返しますが、選択肢が増えることは、良いことだと考えます。 メリット、デメリットを十分考慮した上で、治療を受けて下さい。

本邦では、性機能障害の治療経験がある医師は限られます。
インターネット上、非専門の方々による無責任な記載がございます。
医師の経歴を確認するのも良いでしょう。
例えば、なんら診療実績のない眼科医だった医師が、突然、専門を名乗ることもあるかもしれません。


Silodosin and its potential for treating premature ejaculation: A preliminary report
Int J Urol. 2012 Mar;19(3):268-72.


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