夜勤が多い男性はED有病率も高い?

現代社会では、24時間休まず稼働する工場やサービス業、保守点検業務、配送業など、様々な業務で交替勤務を採用しており、多くの方が、夜間帯の仕事に従事しています。本邦における深夜業従事者割合は、2012年と古い統計ですが、1,200万人(労働者全体のおよそ20%)とされています。
一般的に考えると、人間は基本的には昼行性であるため、夜間勤務は、体に何らかの影響を及ぼす可能性があることは、用意に想像がつきます。日常的に定まった夜間勤務であれば、それをもとに規則正しい生活を送ることも可能ですが、勤務シフトによって、勤務時間帯の変動がある場合は、それも、難しい場合があります。 やはり、EDについても、影響があると考えるのが妥当です。
ここでは、勤務時間帯とEDに関する研究報告を、ご紹介いたします。
メンズクリニック通院中の非標準勤務者の解析
2014年1月~2017年7月に、米国の男性専門クリニックを受診した男性を対象とした横断的な観察研究です。
非標準勤務を、
- 午前7時より前に始まる
- 午後6時より後に始まる
- 通常の勤務時間帯から定期的にはみ出す
- 勤務時間帯が頻繁に変わる
の、いずれかに該当する勤務として定義しています。
対象者754人。そのうち、非標準勤務者は204人(睡眠障害者48人含む)となっています。 EDについては、国際勃起機能スコアの勃起ドメイン(IIEF-EFドメイン)で評価されています。 その他にも、抑うつや睡眠障害の有無、テストステロン治療の有無などが、合わせて、解析されています。
一般住民ではなく、メンズクリニックを受診した男性が対象となっています。そのため、もともとED、男性更年期症状、不妊などを抱えている人が多く、何らかのバイアスが生じる可能性があることは留意する必要があります。
また、研究規模としては小さいものです。今後の研究報告によっては、違った結論が得られる可能性もあります。
夜間勤務者では勃起機能の低下が著名
勤務時間帯別の解析によると、夜勤の男性では日勤または夕勤の男性より、IIEF-EFスコアが平均7.6点低くなっていました。 これは、比較的大きな点数差と言えます。 例えばですが、IIEF-EFスコアで見た場合、EDの重症度分類が1~2段階程度悪化する可能性がある点数差です(軽症の方が重症にる)。 この研究報告は、観察研究ですので、夜勤を開始する前後比較で、平均7.6点低くなったというものではありませんが、ED重症度に比較的大きな差があることがわかります。
交代勤務だけではEDは増加しない
非標準勤務をしているかどうかだけで比較すると、IIEF-EFスコアに有意差はありませんでした。 つまり、早朝勤務や交代勤務をしているというだけで、必ずしもEDが悪化するとは示されませんでした。
睡眠障害の有無に注目した場合、非標準勤務者のうち、睡眠障害を認めた男性では、そうでない男性よりIIEF-EFスコアが平均2.8点低くなっていました。つまり、睡眠障害がEDに関与している可能性が示されています。IIEF-EFスコアの平均-2.8点は、ED重症度が中等度〜重度の方からすると、それほど大きなものではありませんが、もともと、勃起機能が正常〜軽症EDであった方を基準とすると、ED重症度が一段階悪化してもおかしくない低下幅になります。夜勤や交代勤務ではなく睡眠障害の有無がEDに関与
以上の結果より、「夜間勤務」や「交代勤務」そのものよりも、そこから生じる、
- 不眠
- 過度の日中の眠気
- 睡眠・覚醒リズムの乱れ
などの睡眠障害が、EDと関係している可能性が推測されます。 「夜間勤務」は、睡眠障害を強く生じている可能性があると考えられます。
本研究は、あくまで生じている結果だけを解析しているため、これをもって原因を断定できるわけではありません。心理的要因も存在する可能性が高く、well-being(心身の調子・幸福感)が不良な男性では勃起機能が悪かったともしています。 ただ、睡眠障害がEDの原因となることは、一つの可能性としては、十分に考慮すべき事柄と思われます。(実際に睡眠障害と性機能障害についての研究報告もございます。機会があれば、ご紹介したいと考えます。)
テストステロン補充療法の影響
本研究ではテストステロン補充療法中の患者も対象となっております。
睡眠障害を有しテストステロン補充療法を受けている場合は、そうでなかった場合と比較し、IIEF-EFスコアが約2.9点高かったとしています。 つまり、テストステロン補充療法によって、勃起機能の低下を、一部改善できているように見える結果ですが、テストステロン補充療法を行うようになった経緯や、その投与量や治療期間が不明であり、治療前後のテストステロン値も評価されていません。そのため、これをもって、テストステロン補充療法が有効であるとは、断定できません。 また、測定された血清総テストステロン値そのものは、勃起機能低下と相関していないともしています。
一般のED診療において、テストステロン値が低い場合であっても、必ずしも、テストステロン補充療法が有効であるとも限らないこともあり、この場合も、同様なのかもしれません。
睡眠障害によるEDのメカニズム
睡眠障害によってEDが生じるメカニズムとしとしては、
- 睡眠不足による自律神経バランスの変化
- 交感神経活動の亢進
- 内皮機能や一酸化窒素(NO)経路への悪影響
- テストステロン分泌リズムの乱れ
- 不安・抑うつ・疲労
- パートナーとの生活時間のずれ
- 性行為の機会や性欲の減少
- 夜間勃起・REM睡眠の減少
などが考えられます。
勃起には副交感神経活動と一酸化窒素NOによる陰茎血管拡張が重要です。夜勤や交代勤務で生じた睡眠不足や概日リズムの乱れによって、自律神経が交感神経優位になると、勃起に不利に作用するという考えは、生理学的な妥当性があると思われます。
夜勤や交代勤務の対策について
就業環境については、一朝一夕に、改善・変更できることでは無いと思います。諦めるのではなく、その条件下の中で、規則正しい生活を心がけましょう。
夜間勤務や交替勤務がある場合は、勤務後に強い光を浴びすぎないようにし、帰宅後は遮光カーテンやアイマスク、耳栓などを利用して、睡眠を確保できる環境を整えましょう。可能であれば、勤務日と休日で睡眠時間帯を極端に変えないことも大切です。
適度な運動習慣は、自立神経を整えるのに役に立つと思います。また、大きないびき、睡眠中の無呼吸、起床時の頭痛、強い眠気がある場合は、睡眠時無呼吸症候群の可能性があります。早めに検査を受けることをおすすめします。
睡眠の問題には、ストレス、うつ、不安、服用している薬、身体疾患などが関係していることもあります。睡眠薬を自己判断で増減したり、市販薬や飲酒に頼ったりせず、必要に応じて医師に相談して下さい。
Shift Work Sleep Disorder and Night Shift Work Significantly Impair Erectile Function
J Sex Med. 2020 Sep;17(9):1687-1693.
doi:10.1016/j.jsxm.2020.06.009
「我が国の深夜交替制勤務労働者数の推計」
産業医科大学雑誌. 2014 年 36 巻 4 号 p. 273-276
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