バイアグラは抗リン脂質抗体症候群で生じた潰瘍を改善する



バイアグラは網様紫斑と潰瘍を生じた抗リン脂質抗体症候群例に有効である

ケースレポートでは有りますが、バイアグラが二次性の抗リン脂質抗体症候群によって生じた、 網状の紫斑と、足先の潰瘍に有効であったとする報告がございました。

抗リン脂質抗体症とは、陰性荷電したリン脂質、または、リン脂質と血漿蛋白の複合体に対する自己抗体の総称で、 抗リン脂質抗体症候群とは、1983年Hughesらによって、この抗体に関連する血栓症と妊娠合併症を、 抗リン脂質抗体症候群として扱う事が提唱された事から始まっています。

抗リン脂質抗体症候群の半数が、自己免疫性疾患であるSLEに合併し、SLEに合併せず、単独で発症した場合を、 原発性抗リン脂質抗体症候群と分類されます。

主だった症状は、血栓症と習慣性流産ですが、その他にも、網状皮斑や皮膚潰瘍、舞踏病などの神経症状が挙げられます。
今回の報告では、これらの内、網状紫斑と足先の皮膚潰瘍にバイアグラが有効であったとするものです。

16歳、アフリカ系アメリカ人の女性。およそ2年のSLEの病歴を有しておりました。 彼女は、しばしばレイノー現象を自覚しておりました。
2週間前に新規に購入したシューズを履いたところ、痛みを伴うレイノー現象が出現し、 足先は黒ずんできたとの事です。
このため、ニフェジピンを30mg/日から60mgに増量し、以前から服用していた、 プレドニゾロンを5mg/日、ミコフェノール酸モフェチル(免疫抑制剤)1500mgを一日2回服用等は継続とし、 経過を観察していました。
しかし、痛みの増悪と、下趾の壊死の進行は止まらず、入院となっております。

入院時に、網状の紫斑が左下肢第1~2趾に認められ、第1趾は、血液が内出血し充満しており、 第2趾の爪は剥がれ落ち、壊死組織に置き換わっていました。
左第1趾から組織を摘出し、病理学的な検討を行っております。 小~中血管は血栓化しておりましたが、フィブリンの析出や、炎症の波及は認められておりません。
血液検査上は、抗カルジオリピンIgM抗体が検出されています。 これは、今回のエピソード発症の10か月前から検出されていたとの事です。 その他、抗カルジオリピンIgG抗体、抗β2グリコプロテインⅠ抗体は、検出されておりません。 プロテインCやプロテインS、アンチトロンビンⅢ、ホモシステイン、第5凝固因子などの凝固因子の異常も認めておりません。
以上から、抗リン脂質抗体症候群による血栓症を原因とした皮膚壊死、潰瘍と診断されています。

治療は、低分子ヘパリンに加え、メチルプレドニゾロンによるパルス療法、ニトログリセリン塗布剤による局所的な治療を行い、 さらに、ニフェジピンを120mgまで倍増しています。
ストッキングで保温も行っています。
これらの治療にても、痛みと壊死は進行して行きました。
皮膚壊死に対しては、一般的には、抗凝固薬、全身性のステロイド投与を中心に、血漿交換、γグロブリン製剤の投与、 線溶を促す薬剤の投与を行う事もございます。
皮膚潰瘍に対しても、同様です。
今回の例では、このような治療でも、壊死、潰瘍の進行を食い止めることが出来ておりません。
入院第3病日、ニフェジピンの投与を中断し、バイアグラ(シルデナフィル)を1回20mgを1日3回の投与に切り替えています。
これによって患者は、疼痛の軽減を自覚し、24-48時間後には、足背動脈の拍動が増加し、網状皮斑が消失いたしました。 下趾の潰瘍は安定化し、患者は、指先の一部の組織を欠損するだけにとどめる事が出来ています。
このバイアグラ(シルデナフィル)による治療は、14週に渡って継続されています。

抗リン脂質抗体症候群は、先にも述べましたが、リン脂質に対する抗体が、後天性に発現し、 血栓症や妊娠に関連した事象を生じる症候群です。
小児期の抗リン脂質抗体症候群は、血栓症を繰り返す事が多く、また、成人の場合は、 女性例が男性例に比べ5倍程度多いとされますが、小児例は、男女差が同程度とされています。 小児例、成人例ともに、基礎疾患には膠原病を有している事が多く(そのほとんどがSLE)、 下肢の深部静脈血栓症が、もっとも一般的な徴候とされています。 小血管の閉塞は、抗リン脂質抗体症候群の様々な皮膚症状の原因と考えられております。 網状皮斑は、最も頻度の高い皮膚症状です。 ある報告では、レイノー現象は小児例の6%に認められ、指先の潰瘍は3%に認められるとされています。

抗リン脂質抗体症候群の血栓症のメカニズムは、未だ完全に解明されておりません。 リン脂質に対する自己抗体が、血小板を凝集させ、血小板と血管内皮を活性化させ、 凝固の前段階状態に導くためと考えられております。 この過程は、補体カスケードや線溶を促す酵素を抑制によって、増大します。 さらに、動脈硬化などの血管損傷や先天的な血栓形成傾向 (小児抗リン脂質抗体症候群例の45%に何らかの先天性の血栓傾向があるとする報告がございます)、 突然の感染症、ギブス固定などの拘束、外傷、手術等が切っ掛けとなりえます。 今回の場合は、レイノー現象による血管攣縮や新規のシューズによる靴ずれにより、 血栓症が増悪したと考えられます。

バイアグラは、PDE5阻害剤に属するED治療薬です。
PDE5は、陰茎海綿体だけでなく、血管平滑筋や血小板にも存在する事が知られております。 PDE5は、細胞内のcGMPを分解し、二次的に、一酸化窒素NOによる血管拡張と血小板凝集を促します。 バイアグラによりこれを阻害する事は、細胞内cGMPを増加させ、カルシウム濃度を低下させ、血管拡張作用を生じます。 その上、血小板内のcGMPの増加は、トロンビンによるカルシウム放出を抑制し、その結果、血小板の活性化が抑制されます。

バイアグラの主成分であるシルデナフィルは、現在、ED治療と肺高血圧症に対して認可されております。
しかし、これら以外の疾患に対しての有効性も報告されております。
二次性レイノー症候群の患者に対して、発作頻度の減少効果や、本例のように、レイノー現象に伴う指先の潰瘍例での。 毛細血管血流の増加作用や、治癒促進作用が指摘されています。
膠原病に合併したレイノー症候群と結核の合併例や、 播種性の悪性疾患合併例における指先の虚血改善効果も報告されています。
これとは逆に、既存の抗凝固療法、抗血小板療法で改善を認めず、組織プラスミノーゲンアクチベーターとヘパリンによって改善したものの、 この中止によって再発した例も報告されています。
今回の例は、レイノー症候群から、潰瘍を発症した例においても、バイアグラの効果が認められたとするものです。 バイアグラの血流改善効果と抗血小板作用が、改善に有効であった可能性を指摘しております。


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