GLP-1受容体作動薬と自殺念慮の因果関係は否定的

誤解を招かないように結論から延べます。
欧州医薬品庁(EMA:European Medicines Agency)は、利用可能な証拠から、GLP-1受容体作動薬(つまり、マンジャロやリベルサスなど)と抑うつの増悪、自殺念慮や自殺企図との因果関係を支持しないと結論づけています。
アメリカ食品医薬品局(FDA)は、自殺念慮等の報告を受けて評価を継続しているが、現時点で因果関係を示す証拠は見つかっていないとしている。一方で、米国の一部の肥満治療用GLP-1作動薬の添付文書では、抑うつ悪化や自殺念慮の出現に注意し、症状が出た場合は中止するよう記載されています。
以下に、経緯を示します。
ご興味の有る方は、読み進めて下さい。
欧州の副作用報告システム EudraVigilance に自殺念慮の自発報告があり正式な調査が始まる
そもそもの始まりは、市販後副作用調査の一環である欧州の副作用報告システム EudraVigilance に、散発的ながら、自殺念慮、抑うつ症状、自殺企図の報告があったことに端を発しています。EudraVigilanceとは、欧州医薬品庁(EMA) が運営する欧州全体の医薬品副作用(有害事象)報告データベースです。医師・薬剤師・製薬企業・患者から
「この薬を使った後に起きた症状」 が自発的な報告としてデータベースとして蓄積されます。単に報告であり、因果関係は問われていません。
つまり、
「GLP-1受容体作動薬を使った人が、こういう症状を訴えた」
という因果未確定の自発的な報告になります。
2023年7月、これを安全性シグナル(注意すべき兆候)と捉え、因果関係の正式な調査が始まっています。
アメリカ食品医薬品局FDAも、これに追従し調査開始
また、アメリカ食品医薬品局FDAは、欧州医薬品庁EMAによる安全性シグナル調査の開始と、それに伴い国際的に注目されたことにより、独自に調査を開始しています。
アメリカにも、欧州の副作用報告システムEudraVigilance 同様に、FAERS(FDA Adverse Event Reporting System)というものがあります。そこにも、自殺念慮などの報告があったものの、安全性シグナル(注意すべき兆候)と捉えるほど、報告件数としては多くなかったようです。
EMAがシグナルを出したため、FDAも立場上、“確認義務”として調査を開始したとも言えます。
GLP-1受容体作動薬の全世界的な需要から、仮に、頻度として稀であったとしても、社会的影響が大きいと判断したのかもしれません。
2024年4月 EMAは”自殺との因果関係を支持する証拠なし”と結論
“The PRAC has concluded that the available evidence does not support a causal association between GLP-1 receptor agonists and suicidal and self-injurious thoughts and actions.”(公式声明より抜粋)
PRAC(医薬品安全性委員会)は、現在入手可能なエビデンスを総合的に評価した結果、GLP-1受容体作動薬と自殺念慮または自傷行為との間に因果関係があることを支持する証拠は認められない、との結論に至った、としています。(本報告をもって調査終了となっています)
注:PRAC(Pharmacovigilance Risk Assessment Committee)は、欧州医薬品庁(EMA)の傘下に設置された専門委員会で、EU域内で承認された医薬品の市販後安全性を監視し、リスク評価・管理を行うための重要な役割を担っています。
2024年1月 FDAは”自殺との因果関係の証拠なし(監視継続する)”
“Our preliminary evaluation has not found evidence that use of GLP-1 receptor agonists causes suicidal thoughts or actions.”(公式声明より抜粋)
FDAによる現時点での予備的評価では、GLP-1受容体作動薬の使用が自殺念慮または自殺行動を引き起こすという証拠は確認されていない。
追加として、
“However, because these medicines are widely used, FDA continues to monitor this issue.”
ただし、これらの医薬品は非常に多くの患者に使用されているため、FDAは引き続き本件の監視を継続する、としています。
自殺との因果関係を否定する研究報告
米国とヨーロッパにおける2つの薬物疫学的研究の結果、GLP-1受容体作動薬に関連する自殺率の指標が有意に低下することが明らかにしています。
さらに、アルコール使用、抑うつ障害および双極性障害、ならびにパーキンソン病例における研究報告でも、自殺率の出現または悪化は、有意ではないと報告されています。
重度の精神疾患を持つ人における向精神薬関連体重の増加を緩和するためにGLP-1受容体作動薬が処方された場合においても、自殺率の悪化は報告されていません。
(後ほど別項でご紹介したいと考えます。)
ダイエット治療に使用する場合は、信頼できる医師から説明を
マンジャロ等のGLP-1受容体作動薬は、一部、肥満症の適応が有るものの、肥満重症例に限られるため、適応に従った処方は限られています。
全世界的に、著名人が、より一般的なダイエット目的に使用していることをSNSなどで報告していることもあって、いわゆるダイエット治療用としての普及が著しい薬剤です。
ここでは、GLP-1受容体作動薬をダイエット治療に用いることの是非については、おいておきますが、少なくとも、抑うつの増悪、自殺念慮、自殺企図などのメンタルヘルスへの悪影響は考えなくとも良いと思われます。
ただし、ダイエット目的で使用する場合は、適応外処方となるため、仮に薬害が生じた場合でも、医薬品副作用被害救済制度が適応されません。
信頼できる医師から十分な説明を受け、納得した上でダイエット治療を行うようにして下さい。
参照:
1)Meeting highlights from the Pharmacovigilance Risk Assessment Committee (PRAC) 8-11 April 2024
2)01-11-2024 FDA Drug Safety Communication
3)Glucagon-like peptide-1 receptor agonists (GLP-1 RAs) and suicidality: A replication study using reports to the World Health Organization pharmacovigilance database (VigiBase®)
J Affect Disord. 2025 Jan 15:369:922-927.





