GLP-1アナログ製剤のEDへの影響

勃起機能は、陰茎の血管と、勃起を司る神経が健康であることが大切です。糖尿病は、主要なEDの原因であることは、以前より指摘されていますが、この2つの要素にダメージを与えます。
最近、GLP-1受容体作動薬に出現により、糖尿病治療は新たなステージを迎えています。さらに、リベルサスやオゼンピック(セマグルチド)やマンジャロ(チルゼパチド)など、より強力なGLP-1受容体作動薬も市販され、これらが主に使用されるようになっています。これらの薬剤は、体重減少効果が高いため、世界的にダイエット目的での使用が増加しています。
まだまだ歴史の浅い治療薬なため、その副作用についても、不明な点もあります。
その一つが、GLP-1受容体作動薬によるEDへの影響です。
デュラグルチド(トルリシティ)とEDの関係
リベルサスやオゼンピック(セマグルチド)やマンジャロ(チルゼパチド)は、比較的新しい薬剤なため、EDに関する大規模な副作用報告がないため、ここでは、旧来のデュラグルチド(トルリシティ®)による報告を、ご紹介します。
REWIND試験は、糖尿病患者における、デュラグルチドの心血管転帰に及ぼす影響の二重盲検、プラセボ対照ランダム化試験で、24カ国の371サイトで行われています。その臨床試験の項目の一つに、新規のEDの発症が含まれています。
過去に心血管イベントまたは心血管リスク要因のいずれかを持っていた2型糖尿病の50歳以上の男性において、ベースライン、2年、5年、および研究終了時に、国際勃起機能指数(IIEF)アンケートに記入し、調査分析をっています。IIEFの勃起機能サブドメインスコアによって評価された、中等度または重度の勃起不全の初めての発生の有無が主要なエンドポイントです。
2011年8月18日から2013年8月14日までの間に、平均年齢が65.5歳の5312人の男性参加者のうち3725人(70.1%)が分析され、そのうち1487人(39.9%)が心血管疾患の既往歴があり、2104人(56.5%)がベースラインで、既に中等度または重度のEDを有していたとされます。
非ED例に対してフォローされていることになりますが、つまり、EDのハイリスク群に対して、デュラグルチドのED発症に対しての影響が評価されています。
デュラグルチドはED発症を抑制する
EDの発生率は、デュラグルチド群で100人年あたり21.3、プラセボ群で100人年あたり22.0でした(HR 0.92、95% CI 0.85-0.99、p=0.021)。
僅かな差ですが、デュラグルチド群の男性は、プラセボ群と比較して勃起機能サブスコアの低下が少ないという結果が得られています。僅かな差なため、これを持って、ED発症抑制のためにデュラグルチドを使用することはありません。
EDハイリスク群を対象にしていなかった場合は、また違った結果が得られた可能性もありますが、少なくとも、悪影響は無いと考えられます。
最近では、デュラグルチドは、より効果の血糖改善効果や体重減少効果の高いマンジャロ(チルゼパチド)などに取って代わられていますが、同じGLP-1受容体作動薬に分類される薬剤の長期使用の報告は貴重なものです。
オゼンピック(セマグルチド)によるED発症の増加報告もあるため、薬剤によって作用が異なる可能性も否定はできません。今後の報告が待たれます。
Erectile function in men with type 2 diabetes treated with dulaglutide: an exploratory analysis of the REWIND placebo-controlled randomised trial
Lancet Diabetes Endocrinol. 2021 Aug;9(8):484-490.