抗精神病薬で生じる体重増加の問題

うつ病や双極性障害、パニック障害などの精神疾患は、本邦だけでなく、全世界的に患者数が増加しています。 それに伴い、抗精神病薬の副作用に、いかに対処するかが、注目されています。 副作用が少ないとされる第二世代の抗精神病薬であっても、単独あるいは、他の抗精神病薬と併用することで、副作用が出現する場合もあります。 特に、体重増加は重大な問題とされます。
ここでは、抗精神病薬誘発性体重増加に対する、GLP-1受容体作動薬であるマンジャロ(チルゼパミド)とオゼンピック(セマグルチド)の体重減少効果に関する研究報告を、ご紹介いたします。
研究デザイン
Epic Cosmosの電子カルテ(2021年6月~2023年12月)を用いた後ろ向きコホート研究で、対象は、第二世代抗精神病薬を服用中の66,574人です(平均年齢は51.9歳、平均体重108.4kg、平均BMIは39.5kg/m2)。糖尿病例、また、体重増加治療(予防)目的にメトホルミンを使用している例は除外されています。
第2世代抗精神病薬を、抗精神病薬誘発性体重増加のリスク別にカテゴリー分けし、6ヶ月後のチルゼパチド(マンジャロ)ならびにセマグルチド(オゼンピック)の減量効果が検証されています。
GLP-1受容体作動薬の体重減少効果
GLP-1受容体作動薬の処方を受けなかった人と比較して、処方を受けた人は体重が-2.80kg(-2.72%)の減少を認めています。
体重減少幅は、使用薬剤の体重増加リスクによって異なります。低リスクでは-3.02kg、中リスクでは-2.77kg、高リスクでは-1.33kgであり、リスクが高い抗精神病薬を使用中の例ほど、体重減少効果が弱いことが示されています。
5%以上の体重減少は、セマグルチド/チルゼパチドを処方された患者のうち35.1%が達成したのに対し、処方されなかった患者では19.4%であったとしています。
疾患別では、双極性障害やうつ病などの気分障害例のほうが、統合失調症などの精神疾患例よりも、体重減少が大きかったとしています。
セマグルチド(オゼンピック)とチルゼパチド(マンジャロ)の減量効果は、それぞれ-2.50kgと-4.42kgと、チルゼパチド(マンジャロ)の方が大きくなっています。
ただし、ここで得られた体重減少は、抗精神病薬を服用していない肥満例にGLP-1受容体作動薬を使用した場合よりも、小さいものです。つまり、強力なダイエット効果が期待できるGLP-1受容体作動薬ですが、抗精神病薬服用例では、その効果は減弱します。
精神と肥満の2つの悩み
体重増加は、外見上の変化からメンタル的に悪影響を及ぼす可能性があります。精神的な悩みと肥満の悩みと、2つの悩みを抱えている患者も多数存在します。
さらに、これらはスティグマとなり、患者の自尊心や援助を求める意欲に影響を与え、抗精神病薬誘発性体重増加の管理をさらに困難にさせる可能性があります。
容姿の悩みから、治療を中断し、状態が悪化してしまうこともあります。
体重増加によって寿命が短縮される
体重増加は、外見上の問題だけでなく、様々な疾患やメンタル的な影響を引き起こします。
例えば、糖尿病や脂質異常症などの生活習慣病が挙げられます。これらは、心血管系疾患のリスクであり、心筋梗塞などの重篤な疾患に繋がります。
体重増加は、筋骨格に負担を生じさせます。 膝痛や腰痛は、運動量の低下を招き、減量を困難にさせる可能性があります。
抗精神薬による体重増加は、5年から15年程度、寿命を短縮させる可能性を指摘する報告もあります。
まだまだ浸透していない内容
別の記事で紹介いたしましたが、2025年、国際的なガイドラインで初めて、抗精神病薬誘発性体重増加に対しメトホルミンが推奨されました。しかし、当記事の執筆時点で、各国のガイドラインには採用されていません。 抗精神病薬による体重増加を予防しよう、治療しようという試みは、始まったばかりとも言え、まだまだ、医療従事者にも浸透していません。抗精神病薬を処方するにあたり、体重増加をし難い薬剤を選択する、あるいは、処方を受けるに当たり、体重増加リスクの説明するなど、配慮が必要とされます。さらには、体重増加をきたした場合は、その対応が求められます。
抗精神病薬誘発性体重増加に対する治療の考え方
抗精神病薬誘発性体重増加の治療(予防)ガイドラインでは、メトホルミンを1000〜2000mg使用することが推奨されています。 GLP-1受容体作動薬は、2026年時点では、ガイドラインで推奨されているわけではありません。 メトホルミンよりも減量効果が高いため、今後、エビデンス科学的根拠が蓄積されれば、ガイドラインに掲載される可能性は高いと考えます。
問題になるのはコストです。
GLP-1受容体作動薬の抗精神病薬誘発性体重増加に対する適応はありません。おそらく、今後も、適応が追加されることは無いでしょう。メトホルミンもまた、おそらくは、保険適応されることは無いと思われます。
GLP-1受容体作動薬は、減量効果は高くなりますが、費用負担は大きくなります。そのため、私見ですが、まずは、
- コスト負担の少ないメトホルミンを使用する
- メトホルミンの効果不十分例に対して、マンジャロやオゼンピックなどのGLP-1受容体作動薬を考慮
といった、流れになるのではと考えます。
本記事と、抗精神病薬による体重増加にメトホルミンが有効を合わせて読んでいただけると、理解が深まると思います。是非、ご一読下さい。
第二世代抗精神病薬の体重増加リスク分類
今回ご紹介した研究報告内での抗精神病薬(第二世代)誘発性体重増加リスクのカテゴリー分類を示します。
【高リスク】
- オランザピン(ジプレキサ)
- クロザピン(クロザリル)
【中リスク】
- リスペリドン(リスパダール)
- クエチアピン(セロクエル)
- パリペリドン(インヴェガ)
【低リスク】
- アリピプラゾール(エビリファイ)
- アセナピン(シクレスト)
- ブレクスピプラゾール(レキサルティ)
- カリプラジン*
- イロペリドン*
- ルマテペロン*
- ルラシドン(ラツーダ)
- ジプラシドン*
注:*は2026年現在、本邦未承認
尚、抗精神病薬を複数種類服用している場合は、リスクが低い薬剤であっても、体重増加リスクが高まる場合があります。
Weight change from incretin-based weight loss medications across categories of second-generation antipsychotics
Int J Obes (Lond). 2025 Aug 15;49(12):2544–2548.
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