リチウムと勃起不全:概要

リチウムは数十年にわたって双極性障害患者の治療の主力となっている薬剤です。しかし、さまざまな副作用のため、服薬の順守に影響を与える可能性が指摘されています。
気分や精神病の障害に有益な効果があるにもかかわらず、リチウムは、神経、心臓、腎臓、免疫、代謝、内分泌の異常など、さまざまな副作用を引き起こす可能性があります。
他の多くの抗精神病薬や抗うつ薬と同様に、リチウムも性機能障害や勃起不全を引き起こす代表的な薬剤です。性機能障害とED勃起不全は、リチウムを単剤療法として、または、他の心理療法剤と組み合わせて服用した例において、いくつかの研究で報告されています。リチウムを投与された双極性障害または統合失調症患者の約3分の1が性機能障害を報告もあります。
このような副作用の根底にある正確なメカニズムは完全には理解されていません。リチウム関連の性機能障害には、中枢機構と末梢機構の両方が関与していると考えられています。
リチウムによる性機能障害の報告は古くは1970年台に遡る
性機能に対するリチウムの影響の報告は、1970年代の初期の研究にさかのぼります。
双極性障害のために炭酸リチウムで治療された33人のうち5人に性機能障害が発見されました。2人の患者で、リチウムをプラセボに置き換えると、勃起不全は改善したが、炭酸リチウムを再開した後に再発したとしています。
リチウム単剤療法を受けている気分障害のある50人の患者を対象とした大規模な研究では、患者の半数がリチウム治療による性欲の低下を報告もあります。
リチウム単剤療法を受けている35人の双極性障害および統合失調症の男性を対象とした別の研究では、性機能アンケートの少なくとも2つの項目の性機能障害が患者の31.4%で報告され、性的思考の頻度の減少、セックス中の勃起の喪失、勃起の達成と維持の困難のそれぞれ23%、20%、および14%の患者で顕著な結果が報告されています。
このように、多くの研究報告で、炭酸リチウムによる性機能障害、EDの報告が多く存在します。炭酸リチウムによる治療をされている方の3〜5割に、何らかの性機能障害が生じていると推測されます。
さらに、ベンゾジアゼピン系の薬剤を併用している場合は、性機能障害が、より生じやすい可能性指摘されています。
アスピリンが有効である可能性
リチウムによる性機能障害が生じることは、多くの知見から明らかではありますが、これに対する根本的な治療法や対策は、確立されていません。
ある報告では、アスピリンの有効性が指摘されています。
安定した双極性障害の男性患者32人を対象としたこの無作為化、二重盲検、プラセボ対照試験で、国際勃起指数(IIEF)で効果を検討しています。
そこでは、6週間のアスピリン(240mg/日)治療は、プラセボと比較してリチウム関連の勃起不全を有意に改善することが判明しています。
また、バイアグラなどのED治療薬は、やはり有効であることも多くの研究報告されています。
参照:
Lithium and Erectile Dysfunction: An Overview
Cells. 2022 Jan 5;11(1):171.