「アスピリン」は、商品名「バイアスピリン」(バイエル薬品)、「バファリン」(エーザイ-ライオン)などとして、市販されております。
(注:ここで挙げる「バファリン」は、医師が処方する「バファリン」であって、一般的な薬局などで購入できる「バファリン」と異なります。成分も異なります。)
アスピリンは、解熱鎮痛剤の一つで、非ステロイド系消炎鎮痛剤(NSAIDs)に分類されます。
また、最近では、少量のアスピリンは、抗血小板剤として、いわゆる血液をサラサラにする薬として、
非常に広く使用されております。
具体例をあげると、心筋梗塞や狭心症、脳梗塞や閉塞性動脈硬化症などの、
動脈硬化性疾患の治療薬としてし用いられます。
これらの疾患は、動脈硬化により血管が閉塞することによって生じる疾患です。
血管が閉塞してくると、その下流域に血液が流れなくなり、発症いたします。
アスピリンを使用すると、血液がサラサラになり、血流が改善されます。
このため、これら動脈硬化性疾患に使用されています。
この抗血小板作用ですが、少量というのがポイントで、用量を増量すると抗血小板作用が減弱する可能性が指摘されています。(これをアスピリンジレンマと呼びます)
勃起不全も、糖尿病や高血圧、脂質異常症、喫煙などの動脈硬化性疾患で、陰茎の血流が低下することにより発症する可能性がございます。
アスピリンの使用により、陰茎の血流が改善し、EDが改善する可能性がございますが、
残念ながら、2013年5月時点で、アスピリンによりEDが改善したとの報告はございません。
バイアグラ、レビトラ、シアリスとの併用は可能です。
アスピリンの素であるサリチル酸は、古代エジプトにおいて既に使用されていたとされる、非常に古い薬剤です。
柳の樹皮からの抽出液が鎮痛薬として使用されていたとの事ですが、その主成分がサリチル酸です。
そのままでは、消化器系の副作用が強い為、経口薬としては使用できませんでした。
このサリチル酸をアセチル化し、経口投与を可能としたものが、アスピリン(アセチルサリチル酸)です。
臨床応用されたのが1900年ころとされています。
1900年代半ばころ、アスピリンに出血誘発作用を有すことが示唆されています。
また、動脈硬化性疾患である狭心症に応用されたのも、同時期とされています。
その頃は、抗血小板作用を有すことは知られおらず、単純に、胸痛に対して、
痛み止め(消炎鎮痛薬)として使用されました。
その後、消炎鎮痛作用を発揮しない低用量で、抗血小板作用を発現する事が分かり、
その機序も、徐々に明らかにされました。
アスピリンは、血小板に存在するシクロオキシゲナーゼを不可逆的にアセチル化し、
不活化することによって、抗血小板作用を発現いたします。
特に抗血小板作用は、シクロオキシゲナーゼ-1(以下cox-1)の阻害によります。
アスピリンによるcox-1の第530セリン残基の不可逆的なアセチル化は、基質であるアラキドン酸の活性化を抑制し、
血小板活性化に重要なトロンボキサンA2(TXA2)の合成を阻害します。
この作用は、サリチル酸にはございません。
当然ながら、cox-2にも作用いたします。
cox-2にもcox-1に対する作用に対応する第516セリン残基があり、これをアセチル化いたします。
cox-2の阻害作用は50%程度で、プロスタグランディン系の前駆物質の合成を抑制し、抗炎症性物質の産生を促すとされます。
アスピリンの抗炎症作用は、サリチル酸に変化されたのち、cox-2遺伝子の転写を抑制し、
cox-2自体の発現量を減少させることによるとされています。
(アスピリンの抗炎症作用は、低用量では発現いたしません。)
また、アスピリンはcox以外にも、フィブリノーゲンやアルブミンなど様々な蛋白をアセチル化いたします。
しかし、これらのアセチル化が示す臨床作用に関しては、明らかでは有りません。
アスピリンによる一次予防効果(血栓症の新規発症予防)は、国際的にも認められておりますが、
健常人においては、得られる利益が副作用等の不利益に相殺されるため、
その予防的な服用は推奨されておりません。
さらに、糖尿病などの血栓症のリスクが高い患者を対象としたPROPADADなどの欧米の臨床試験においては、
その一次予防効果が否定されました。
しかし、本邦で行われたJPAD試験では、65歳以上の患者において、有意に一次予防効果が示されております。
この違いについての原因は定かでは有りませんが、欧米諸国と本邦では、血栓症の発現頻度や基礎疾患、
予後などが異なる事が知られており、諸外国の臨床試験の結果を、そのまま本邦に適応する事が出来ないとされています。
人種差と考える事も出来ます。
一次予防と比較し二次予防(血栓症再発予防)については、国際的にも本邦においても、予防効果があるとして、 見解が一致しています。 急性冠症候群に比較し、非心源性脳梗塞や一過性脳虚血発作の二次予防効果は、やや少ない傾向にあります。
臨床において広く使用される薬剤ですが、”抵抗性”、つまり期待通りの効果を発現しないことが、しばしば問題にされます。 この”抵抗性”の発現機序に対し、様々な説が唱えられています。
アスピリンは、副作用として胃粘膜障害を来す場合が有り、これを予防するために、しばしば抗潰瘍薬が併用されます。
抗潰瘍薬の内プロトンポンプ阻害剤と呼ばれるグループとの併用は、アスピリンをイオン化し、
胃粘膜からの吸収を低下させうるとされています。
アスピリン以外の非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、cox-1に一時的に結合するのですが、これが、
アスピリンのcox-1の不可逆的なアセチル化を競合阻害させる可能性も指摘されています。
糖尿病などで血小板が活性化し、血小板寿命が寿命が短縮することも、”抵抗性”の原因の1つともされています。
非常に医療現場で使用頻度の高いアスピリンですが、若干の注意事項がございます。
まず、血液をサラサラにする抗血小板作用により、逆に出血するリスク、また、出血した場合に止血しにくい場合がございます。
手術を受ける時など、アスピリンの服用を中断しなければならない場合もございます。
抗血小板作用と薬剤自体の酸性を示すことから、胃潰瘍や急性胃炎をきたす場合もございます。
このため、アスピリンを服用する場合、合わせて、胃薬も処方されることがほとんどです。
この副作用を軽減するために改良されたのが「バイアスピリン」です。
バイアスピリンは、薬剤が胃で溶けて吸収されるのでなく、腸で吸収されるようコーティングされた腸溶剤となっております。
しかし、腸溶化による胃粘膜障害の減少は、明らかになっておりません。
皆さま、ライ症候群を御存知でしょうか?
インフルエンザや水痘などのウイルス感染時に、解熱鎮痛剤を使用することにより、脳浮腫や肝障害を生じる、重篤な病態です。
これも、アスピリンの副作用に挙げられます。このことから、ウイルス感染症時に、アスピリンを使用することは避けられております。
解熱鎮痛剤であり、抗血小板剤であるアスピリンですが、最近になり、大腸がんの発症予防効果が示されました。
しかし、アスピリンの副作用と大腸がんの予防効果を比較した結果、大腸がん予防を目的とした服用は推奨されておりません。
私たちの健康を維持するため、医療現場ではなくてはならない医薬品の一つです。
written by シアリスを東京で.池袋スカイクリニック