うつ病・双極性障害・不安障害などは増加傾向にある

現代人は、様々なストレスに晒されており、年々、うつ病や双極性障害などの気分障害や、パニック障害などの不安障害などの精神疾患を患う方が増加しています。
厚生労働省発表の2023年患者調査では、精神疾患の患者数は、
- 総患者数:約603万人
- 入院患者:約26.6万人
- 外来患者:約576.4万人
となっています。日本人のおよそ20人に1人が医療機関で精神疾患の治療を受けている計算になります。
その内訳は、概ね、
- 気分障害(うつ病・双極性障害) … 約170~180万人
- 認知症 … 約120~130万人
- 神経症性障害・不安障害 … 約80~100万人
- 統合失調症等 … 約80万人
- 発達障害 … 数十万人規模
- 依存症・その他 … 数十万人規模
です。前述と重複しますが、この中でも、近年の患者数増加の中心は、
- うつ病
- 双極性障害
- 不安障害
- 認知症
です。
抗精神病薬による弊害
当然ながら、精神疾患の増加とともに、抗精神病薬で治療されている患者数も増加し、それに伴い、抗精神病薬による副作用を訴える患者も増加しています。
池袋スカイクリニックで扱う診療内容では、抗精神病薬に因る薬剤性EDも、その一つであり、生活の質(quality of life)の低下に繋がります。
また、抗精神病薬による体重増加・肥満は、直接的に健康障害に繋がるため、ダイエット対策は、より重要度が高いとも言えます。
抗精神病薬に因る体重増加
抗精神病薬による
- ヒスタミンH1受容体遮断作用
- セロトニン5-HT2C受容体遮断作用
によって、満腹感が得られにくく成ることが主因とされます。
そのため、
- 食事量増加
- 間食増加
- 夜食増加
- 甘い物への欲求増加
が生じ、結果として、体重が増加し、肥満となります。
また、食欲だけでは説明できない体重増加もあります。 抗精神病薬は、
- 鎮静作用
- 活動量低下
- 日中の眠気
を引き起こします。活動量が低下し、消費カロリーが減少するため、やはり肥満に繋がります。
さらに、オランザピン(ジプレキサ)やクロザピン(クロザリル)は、体重増加が起こる前から糖代謝異常(インスリン抵抗性)が生じることがわかっています。生じたインスリン抵抗性は、肥満や糖尿病に繋がります。
食欲調整ホルモンであるレプチンやグレリンにも影響を与えます。
抗精神病薬の抗コリン作用は、口渇感を引き起こします。口渇感は、糖分を含む清涼飲料水などの摂取増加を引き起こし、体重増加をきたすこともあります。
メトホルミンによる体重増加の抑制
2025年に PROGRESS Research Group を中心とした国際的な専門家グループが作成した、「エビデンスベースのコンセンサスガイドライン」では、抗精神病薬によ体重増加に対し、メトホルミンが推奨されています。
このガイドラインでは、
『メトホルミンは抗精神病薬誘発性体重増加(Antipsychotic-Induced Weight Gain:AIWG)予防に有効性が示されている唯一の薬物』
とし、
- オランザピン(ジプレキサ)やクロザピン(クロザリル)など高リスク薬では開始時から併用を検討
- 若年者やBMI高値、代謝リスクを持つ患者では積極的に使用
といったように、推奨されています。
このガイドラインは、2026年時点で最新のものであり、未だ、各国の精神疾患治療ガイドラインには採用されていません。
メトホルミンの体重増加抑制効果
メトホルミンによる抗精神病薬誘発性体重増加予防効果に関する研究報告では、抗精神病薬開始時からメトホルミンを併用すると、
『体重増加を約3~4kg抑制』
できることが示されています。
- 食事指導
- 運動療法
- 可能なら体重増加の少ない抗精神病薬への変更
メトホルミンは、薬物療法としては第一選択薬に位置しますが、上記も、合わせて行っていく必要があります。
高リスク薬のオランザピン・クロザピンを開始する場合
体重増加リスクが非常に高い、
- クロザピン(クロザリル)
- オランザピン(ジプレキサ)
は、抗精神病薬の開始日からメトホルミン併用が推奨されています。
中等度リスク薬の場合
中等度リスクの
- リスペリドン(リスパダール)
- クエチアピン(セロクエル)
- パリペリドン(インヴェガ)
などでは、以下のリスク因子があれば開始時からメトホルミン併用を検討します。
リスク因子
- BMI高値
- 肥満既往
- 糖尿病前症
- 糖尿病家族歴
- 脂質異常症
- 高血圧
- 心血管リスク
- 若年者
- 初回精神病エピソード
若年者(特に10~25歳)
体重が3%以上増加している場合
開始時にメトホルミンを使っていなくても、
『体重が3%以上増加』
した時点での開始が推奨されています。
従来は、体重が5〜10%増加してから対応することが多かったため、かなり早期介入となっています。
メトホルミン1000〜2000mg|保険適応なし
メトホルミンの使用量は、
『まず、500mgで開始し、順次、1000〜2000mgに増量する』
となっています。
メトホルミンは、副作用として、軟便などの消化器系症状が出やすいため、少量から開始し、漸増する必要があります。
2026年時点で、メトホルミンには、抗精神病薬誘発性体重増加予防の適応はありません。メトホルミンを使用する場合は、自由診療(保険外診療)になります。
主な第2世代抗精神病薬(非定形抗精神病薬)
従来の第1世代抗精神病薬(定型抗精神病薬)に比べて、錐体外路症状(手の震え、筋肉のこわばりなど)や遅発性ジスキネジアが比較的少ないという特徴があり、最近、頻用されています。
| 一般名 | 商品名 | 体重増加リスク |
|---|---|---|
| クロザピン | クロザリル | 非常に高い |
| オランザピン | ジプレキサ | 非常に高い |
| クエチアピン | セロクエル | 中等度 |
| リスペリドン | リスパダール | 中等度 |
| パリペリドン | インヴェガ | 中等度 |
| ブレクスピプラゾール | レキサルティ | 低い |
| アリピプラゾール | エビリファイ | 低い |
| ルラシドン | ラツーダ | 低い |
上記以外でも、多くの抗精神病薬において食欲が亢進することが、見受けられます。
すべての抗精神病薬を記載できないため、最近、頻用される薬剤を記載しております。
2025年の抗精神病薬誘発性体重増加予防ガイドラインで特に重視されているのは、『オランザピン(ジプレキサ)』と『クロザピン(クロザリル)』です。
これらは数か月で5~10kg以上増加することもあり、
「体重が増えてから対処するより、最初からメトホルミンを併用した方がよいのではないか」
という考え方の中心になっています。
一方、「アリピプラゾール(エビリファイ)」と「ルラシドン(ラツーダ)」は、体重増加リスクが比較的低いため、通常は開始時からメトホルミンを併用する対象にはなりにくいと考えられています。
ただし、抗精神病薬を複数服用している場合も多く、積み重なって副作用(体重増加)が生じる可能性も考慮する必要があります。
その他の体重増加リスクのある薬剤
第一世代の抗精神病薬である
- クロルプロマジン(コントミン)
- レボメプロマジン(ヒルナミン・レボトミン)
は、体重増加リスクが高い薬剤として知られています。
- スルピリド(ドグマチール)
は、胃薬としても使用される薬剤であり、体重増加をきたします。特に、女性例で、体重増加が顕著になることがあります。
双極性障害で使用される気分安定化薬である
- バルプロ酸(デパケン・セレニカ、バレリン)
- リチウム
は、体重増加をきたしやすい薬剤として知られています。
双極性障害の治療において、
- オランザピン(ジプレキサ)+バルプロ酸
- クエチアピン(セロクエル)+バルプロ酸
しばしば上記の組み合わせで処方されますが、体重増加のリスクの高い組み合わせです。
抗うつ薬では
NaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)
- ミルタザピン(リフレックス・レメロン)
SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)の
- パロキセチン(パキシル)
三環系抗うつ薬の
- アミトリプチリン(トリプタノール)
- イミプラミン(トフラニール)
- クロミプラミン(アナフラニール)
は、体重増加をきたしやすい薬剤とされます。
上述いたしましたが、体重増加リスクが低い薬剤であっても、複数薬剤を服用している場合は、体重増加を生じる可能性はございます。
GLP-1受容体作動薬の抗精神病薬誘発性体重増加予防効果
肥満・ダイエットの治療薬は、マンジャロやオゼンピック、リベルサスなどのGLP-1受容体作動薬が、中心になっています。
では、抗精神病薬誘発性体重増加に対してはどうか?というと、やはり、有効と考えられます。 しかし、GLP-1作動薬は、比較的、新しい薬剤であるため、まだ、エビデンス(科学的根拠)の蓄積が多くありません。2026年現在、GLP-1受容体作動薬が抗精神病薬誘発性体重増加に有効であるとする研究報告が目立つようになってきています。
もしかしたら、数年後には、ガイドラインが追加変更されているかもしれません。
2026年時点では、メトホルミンが第一選択薬と成りますが、軟便などの消化器系副作用によって増量ができない場合は、GLP-1受容体作動薬が良い適応かもしれません。
Metformin for the Prevention of Antipsychotic-Induced Weight Gain: Guideline Development and Consensus Validation
Schizophrenia Bulletin, Volume 51, Issue 5, September 2025, Pages 1193–1205
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