大腸がん術後の死亡と転移リスクとED治療薬の関係

2023年の全国がん登録に基づく報告において、新たに癌に罹患した患者数の順位では、大腸がんが第1位となっています。 2024年の報告では、大腸がんは、癌に因る死亡順位においても、第2位となっています。 大腸がん対策は、国民の健康を維持する上で、重要な課題の一つです。
大腸がん治療においては、切除可能であれば、外科的に切除するのが、現時点では、最も確実な方法と考えられています。しかし、切除できたと思われた例においても、その一部は、再発や転移を生じてしまいます。
ここでは、大腸がん患者の術後に、ED治療薬であるPDE5阻害剤の使用することは、転移と死亡率の減少と関係があるとする報告を、ご紹介いたします。
スウェーデンの全国データベースの解析
2005年1月から2014年3月の間、スウェーデンにおける癌登録と処方薬登録をリンクし、初発の男性大腸がん患者12,465人、そのうちED治療薬非使用群は11,329人、ED治療薬使用群は1,136人を抽出、解析されています。追跡期間中央値4.25年です。 スウェーデンは国民皆保険を採用しているため、全国民規模のデーターベースの解析となっています。
ED治療薬使用群は、2回以上の処方歴がある群と定義し、大腸がん患者において、ED治療薬使用群と非使用群の比較が行われています。 対象薬剤は、シルデナフィル、タダラフィル、バルデナフィルで、その処方目的や使用頻度などの服用法や容量については、考慮されていません。
また、ED治療薬の比較として、アルプロスタジルとの比較も、行われています。
ED治療薬は大腸がん死亡リスクを18%低下
この報告では、大腸がん死亡率は、ED治療薬非使用群が年あたり37.9/1000人であったのに対し、ED治療薬使用群は20.2/1000人であり、死亡リスクが18%低下(調整後HR=0.82,95%CI=0.67-0.99)していたことが示されています。 早期段階(ステージⅠ〜Ⅱ)で診断された患者では、進行期(ステージⅢ)の患者よりも、リスクの低下が大きいことも示されています(-23% vs. -14%)。
ED治療薬の積算の使用量が増加すると、リスクの低下は鈍化〜横ばい化するものの、ある一定量までは、リスクの低下傾向が続いています。
大腸がん遠隔転移リスクは15%低下
転移については、その発生率はED治療薬非使用群が年あたり51.40/1000人に対し、ED治療薬使用群では42.20/1000人であり、転移リスクが15%低下(調整後HR=0.85,95%CI=0.74–0.98)しています。転移部位では、ED治療薬の使用と遠隔転移のリスクとの間には有意な逆相関が認め、リスクを17%低下(調整後HR=0.83,95%CI=0.71–0.96)させています。しかし、局所リンパ節転移との間には有意な関連性は認められていません(調整後HR=1.12,95%CI=0.77–1.62)。
さらに、このデータの解析には続きがあります。
開腹術施行例でのみリスクが低下する
大腸がん転移リスクの低下は、開腹手術を受けなかった患者では、統計学的に有意差が認められなかった(調整後HR=1.10、95% CI=0.90~1.35)のに対し、開腹手術を受けた患者においてのみ、明確なリスク低下(-26%)が認められています(調整後HR=0.74、95%CI=0.60~0.90)。 つまり、開腹手術の有無が違いを生み出しているということになります。
また、あくまで術後のED治療薬の使用であって、術前の使用は、このようなリスク低下は認めていません。
スウェーデンで使用可能なPDE5阻害剤以外のED治療薬であるアロプリスタジルにおいても、このようなリスク低減効果は認められていないため、PDE5阻害剤、いわゆるED治療薬の術後の使用が、大腸がん転移リスクを低減していることになります。
ED治療薬は大腸がん術後の免疫力を回復する?
癌の転移は、何らかの刺激によって誘発されうると考えられています。 驚かないで頂きたいのですが、手術侵襲が、癌の転移を誘発させうるとも考えられています。 これは、手術侵襲により免疫能が低下(手術誘発性免疫抑制と呼ばれます)することが一因とされます。 マウスモデルでは、ガン手術後に骨髄由来抑制細胞(MDSC)が増加する一方、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)、ナチュラルキラー(NK)細胞、樹状細胞は有意に減少することが示されています。 また、骨髄由来抑制細胞(MDSC)によって低下していた細胞傷害性Tリンパ球(CTL)の機能は、PDE5阻害剤(ED治療薬)で回復することを示唆する研究報告もあります。
(一般の方は、「手術後は免疫力が低下するが、ED治療薬が、免疫力を回復する可能性がある、それによって死亡リスクと転移リスクを減少させる可能性がある」と考えていただければ十分です)
まだまだ課題は多い
本研究では、使用されたED治療薬の種類、その容量、使用頻度の解析はされていません。 ED治療薬を使用した患者は、使用していない患者よりも結婚する可能性が高く、教育レベルと収入レベルが高い傾向にあったとしています。 ED治療薬使用者はアスピリンを処方される可能性が低く、ベースラインでの併存疾患の有病率が低かったともしています。 メカニズムが明らかになっていないため、それが、直接的な作用ではない可能性も残されています。遠隔転移とリンパ節転移で結果が異なる理由は、介在する免疫システムの違いに由来するようにも思えますが、より深く、考察してゆく必要があるとも考えます。 また、男性患者を対象としています。女性に対する効果は不明です。
二重盲検試験など、より厳格に設計された研究報告を待つ必要があります。
ED治療薬の使用頻度は?
ちなみに、あくまで私見ですが、死亡リスクと積算されたED治療薬の服用量の図(fig.3)を見ると、ED治療薬の積算量で7,000〜7,500mgあたりで、そのリスク低下の下がり幅が少なくなってきます。 平均観察期間が4.25年ですので、仮にED治療薬であるシルデナフィル50mgを頓服していたとすると、2.7〜2.9回/月の使用頻度となります。 使用薬剤がタダラフィル20mgとして試算すると、6.9〜7.4回/月の使用頻度となります。
もちろん、大腸がんの手術を受ける方にオススメしているわけではありません。あくまで参考程度にお考え下さい。
Phosphodiesterase-5 inhibitors use and risk for mortality and metastases among male patients with colorectal cancer
Nat Commun. 2020 Jun 24;11:3191.
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