ED治療薬が心血管疾患を予防する可能性について



PDE5阻害薬(勃起薬)による心血管疾患の予防についての報告

 第20回日本性機能学会東部総会での報告です。
東邦大学医療センター大森病院リプロダクションセンター、永尾光一先生。
多少の解説を加えながらご紹介いたします。

現在使用されているED治療の中心的薬剤であるPDE5阻害薬は、心臓病(狭心症など冠動脈疾患)で開発されていたものです。
もともと英国ファイザー研究所で合成されたサイクリックGMP(cyclicGMP:cGMP) に対する特異的ホスホジエステラーゼ(アイソザイム5)選択的阻害薬です。
しかし残念ながら心臓病治療薬としては、臨床試験上、その有効性は示されませんでした。
一方で、初期の健康成人男性を対象とした臨床試験において、被験者から勃起力の向上が報告され、その後、ED治療薬として開発されています。 もともと冠動脈疾患治療薬として開発されたため、血管拡張作用など、勃起改善作用以外に、さまざまな効果が報告されています。

まず、血管拡張作用が挙げられます。
動脈硬化が存在した場合、この血管拡張能が低下する事が知られています。
動脈硬化を調べる検査には様々なものがございますが、ここでは、流依存性血管拡張反応(FMD)検査に注目しています。
これは、腕の動脈で測定できるもので、血圧測定などで使用されるカフを用い、腕を圧迫、解放し、生じた血管拡張の度合いを測定いたします。 通常、上腕動脈の内径(安静時)は、男性でおよそ4mm、女性でおよそ3mmです。 カフで上腕を250mmHgまで加圧し5分間血流を止め、解放し、血管拡張を測定します。
測定結果は、(最大の血管内径-カフで圧迫前の血管内径)÷カフで圧迫前の血管内径(%)を%FMDといいます。
血流再開後、%FMDが7%以上認められた場合、動脈硬化は認めず、3~4%以下では動脈硬化のリスクが高いとされています。

このFMD検査において、Desouzaらはシルデナフイルバイアグラ)投与群で血管拡張機能を改善させたと報告しています(1)。
また、Rosanoらは、タダラフイル(シアリス)で同様のFMD検査を行い血管拡張機能が改善し、タダラフィル投与中止2週間後でも効果が維持されたと報告しています。 さらに、血管内皮マーカーである亜硝酸塩/硝酸塩濃度も上昇、強力な血管収縮因子のエンドセリンー1は低下し、 これらの作用がタダラフィルシアリス)投与中止の2週間も維持されたとしています(2)。

血管内皮お再生させる可能性も指摘されております。
私たちの血液中には、骨髄に由来する血管内皮前駆細胞Endothelialprogenitorcells(EPCs)が存在します。 この細胞は、障害された血管を再生する作用を持ちます。
現在、先端医療として骨髄注射による閉塞性動脈硬化症や、心筋梗塞などの治療が行われていますが、 Forestaらは、シルデナフイル(バイアグラ)やバルデナフィル(シアリス)が、 末梢血中の血管内皮前駆細胞(EPCs)増加作用があることを報告しています(3),(4)。

シルデナフイル(バイアグラ)やバルデナフィル(シアリス)が、原発性肺高血圧症治療に用いられている事は、 私たちスカイクリニックのホームページでも、ご紹介させて頂いております。
原発性肺高血圧症は、日本の患者数は約6000人と推定される難病です。
肺血管障害をED治療薬が改善いたします。

Gazzarusoらは、血管撮影で無症候の冠動脈病変のある2型糖尿病患者291例を対象に、 勃起不全と心血管イベントMajoradversecardiacevents(MACE)の関係を報告しています。
MACEを起こした患者は、全体で49例で、冠動脈疾患による死3例、突然死2例、致命的でない心筋梗塞14例、うっ血性心不全による死1例、 不安定狭心症8例、血行再建を繰り返す3例、脳卒中または一過性脳虚血発作16例、末梢動脈病変2例。
勃起不全を合併した患者は、MACEの発生率が高く(25.4%vs11%)、MACE発症患者の勃起不全合併率も高率(61.2%vs36.4%)とのことです。
これに対する薬剤介入試験は、脂質異常症治療薬でスタチンと呼ばれる薬剤とPDE5阻害薬で行い、スタチン使用群ではMACEの発生抑制が認められ、 PDE5阻害薬使用群においてもMACEの発生抑制が認められています。

このように様々な効果が指摘されているED治療薬です。
血管を若返らせ、アンチエイジング効果が期待されています。
冠動脈疾患に対する有効性は、現在示されていませんが、こうして様々な臨床試験、研究報告があるのは、それだけ注目されている薬剤だからです。
今後も、PDE5阻害剤からは、目が離せませんね。
(1)Desouza C et al. DiabetesCare25:1336-39,2002.
(2)Rosano GMC et al. EurUrol.47:214-222,2005.
(3)Forestaetal:JJ Sex Med6(2):369-372,2009.
(4)Foresta C et al. Int.J.Impot.Res17:377-80,2005.
(5)Gazzaruso et al:JAmCollCardiol51(21):2040-4,2008.


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