認知症の原因である脳小血管病の治療薬としてタダラフィル使用の試み

認知症は、アルツハイマー病のほか、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症が、4大認知症として知られています。
血管性認知症は、アルツハイマー病についで頻度が高く、その予防や治療について、関心が注がれています。 血管性認知症は、名前の通り、脳血管の障害により発症します。何らかの原因による血流障害が本態です。 いかに脳血管を保護し、血流を維持するかが、重要です。
ED治療薬は、血管拡張薬であり、その血管拡張による血流改善作用は、脳血管含め全身に及びます。
ここでは、タダラフィルの血流改善作用が、脳小血管病に効果があるかを検討した研究報告をご紹介します。
以前、ご紹介したタダラフィルは認知機能を改善するとする研究報告とは、対象となる認知性が別のものです。アルツハイマー病と血管性認知症の違いを理解してください。
ここでご紹介するものは、血管性認知症に関するものになります。
注:以前、ご紹介した『認知障害におけるED薬タダラフィルの可能性』の研究報告とは、対象となる認知症が別のものです。アルツハイマー病と血管性認知症の違いを理解してください。
ここでご紹介するものは、血管性認知症に関するものになります。
脳小血管とは
脳小血管病cerebral small vessel diseaseの病 変部位は、読んで字のごとく、小さな血管になりますが、小血管の基準は、施設間で異なることも多く、明確には決まっていません。
一般の方は、目で見ることの出来ない、毛細血管よりやや大きい血管の障害とお考えください。
ポイントは、大血管と異なり小血管の病変はCTやMRI等を用いた血管撮影によって、可視化できないところです。脳小血管病は、症状も乏しく、検査などで発見しにくいため、いかに把握し、予防と治療に繋げるかが課題です。
加齢や高血圧や糖尿病などが危険因子とされています。
脳小血管病は神経線維の有る皮質下の障害
脳はざっくりと(本当にざっくりとですが)、皮質と皮質下に分類できます。
皮質(下記図の脳表面の灰色の層)とは、脳表面の脳神経細胞の層を指します。脳神経が傷害されれば、認知症や麻痺などが生じることは、容易に想像ができると思います。脳の中でも特に大切な部位であることから、大血管から豊富な血流が供給されています。
皮質下とは、神経細胞をつなぐ神経線維の層になります。ここが障害された場合、軽微であれば、自覚症状が出現しません。脳神経経路は、一つの神経線維が傷害されたとしても、迂回経路が有効であれば、神経伝達が維持されるためです。

隠れ脳梗塞
隠れ脳梗塞という言葉を聞いたことはないでしょうか?
症状が無く、脳ドックなどでMRIを行って初めて、指摘されるものです。隠れ脳梗塞は、脳皮質下の脳梗塞であったり虚血(血流低下)とされます。ただし、やはり数が増えてくると、脳の機能が低下し、認知症が発症します。多発性ラクナ梗塞やbinswanger病等がこれにあたります。
皮質下は、主に小血管によって血流が供給されています。
脳小血管病とは、この皮質下の障害を指しています。
タダラフィルが脳小血管の血流を改善すると仮定
脳小血管病のメカニズムの一つとして、血管内皮機能障害による血管反応性の低下が指摘されています。
ED同様、NOおよびcGMPの分子経路が重要であり、この障害により、脳血流が低下することが知られています。つまり、ED治療薬であるタダラフィルは、陰茎の血流だけでなく、脳血流を改善すると仮定しているわけです。
タダラフィルによって脳皮質下病変は縮小するのか?
71名の被験者を、タダラフィル20mg/日連日服用群とプラセボ群とに分け、3ヶ月後に評価を行っています。 MRIを行い、皮質下病変のサイズ、認知機能などの評価を行っています。
結論から申しますと、本研究では、タダラフィルによって、皮質下病変のサイズは、減少傾向であったものの、統計学的有意差は生じませんでした。
また、全般的な認知機能の評価とし、モントリオール認知評価が行われていますが、これも、有意差は認められておりません。
他にも、処理速度(SDMT)、注意・ワーキングメモリー(Digit Span)、実行機能(Trail Making Test A/B)、視覚・言語記憶(CANTAB)、反応時間などが評価されていますが、反応時間がタダラフィル群でわずかな遅延を認めていますが、ほとんどの認知領域で有意差は無く、臨床的な意味合いは少ないとされています。
脳皮質下病変の改善効果は無かったとされるが、、、
ご存知の方もいるかと思いますが、脳神経細胞などの高度に分化した細胞は、現在の医療では、再生させることが困難です。 再生医療の研究から、脳神経細胞の再生の可能性が見出されつつありますが、かつては、脳神経細胞は、再生できないとさえ、言われていました。
脳MRIにより皮質下病変が評価されていますが、脳MRIで検出された病変は、すでに、変性(質的に変化)してしまっている病変です。その変化は、すでに、不可逆性であった可能性があります。
タダラフィルによって、3ヶ月という観察期間で回復すると仮定するのは、やはり、難しかったと言えます。
より長期の観察機関であった場合は、どのような結果になったのでしょうか?進行抑制効果は有るのでしょうか?
さらに、質的に変化する前段階でタダラフィルを使用した場合は、予防効果はあるのでしょうか?
タダラフィルの血管拡張作用や血管内皮への作用から、もしかしたら、別の結果が得られるかもしれません。
本研究ではポジティブな結果は得られていませんが、だからといって無駄な研究ということではありません。 効果が得られなかったということが分かったことでも有益です。
このような地道な研究の積み重ねが、将来の研究に繋がります。
Tadalafil Treatment in Patients With Cerebral Small Vessel Disease: The ETLAS-2 Randomized Clinical Trial
Stroke. 2025 Jul 18;56(10):2846–2857.
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