「心房細動」は、心房が小刻みに震え、規則正しい正常な収縮と拡張を行うことができなくなる不整脈です。
心臓は、二つの心房と二つの心室からなります。全身をめぐった血液は、まず、右心房へ流入し、心房の収縮により右心室へ、
心房の収縮に引き続き生じる心室の収縮により、肺へ血液は送られ、肺で酸素化された後、左心房へ戻ります。左心房へ戻った血液は、
心房収縮により左心室へ送られ、心室の収縮により、全身へ送られます。心臓は、いわば、血液を循環させるポンプといえます。
心房細動は、この一連のポンプ作用のうち、心房の機能が低下します。
心房細動は、慢性心房細動と発作性心房細動に分類されます。
慢性心房細動は、高齢者に多く、60歳以上の方に臨床上しばしば見受けられる不整脈です。以前は、リウマチ熱による心臓弁膜症が原因として多いものでしたが、
現在は、非弁膜症性の心房細動がほとんどです。この場合は、高血圧や虚血性心疾患として多く見受けられます。
発作性心房細動は、若年者にも見受けられます。基礎疾患が認められる場合や、基礎疾患が分からない場合もございます。
最近では、肺静脈に起源する期外収縮が引き金になって、心房細動が引き起こされることも示されております。
この場合は、カテーテルアブレーションを行うことにより治癒が期待されています。
その他、心筋症や甲状腺機能亢進症などでも心房細動を発症いたします。
心房細動の発症に自律神経が関与しています。細かく申し上げますと、交感神経が優位な時に発症する心房細動と、
副交感神経が優位な時に発症する心房細動がございます。
この違いを考える事は、治療上大きな意義があります。使用薬剤の選択が異なる場合があるからです。
具体的な例をあげると、運動しているときに発症する心房細動は、交感神経の関与が強く、飲酒時や睡眠中に発症する場合は、副交感神経の関与が強い心房細動の可能性がございます。
具体的な、治療薬の選択は、主治医と相談してください。
心房細動の症状は、程度に応じ様々です。動悸を自覚される方や、心不全症状、場合によっては失神(アダムス・ストークスAdams‐Stokes発作といいます)をきたす方もいらっしゃいます。
逆に、無症状の方も多く、健康診断や人間ドックで初めて指摘される方もいらっしゃいます。
また、この心房細動を罹患されている方は、脳梗塞(脳塞栓症)の危険を伴います。
心房が正常な収縮をおこさないと、血液が心房内で凝固し、血栓を生じます。この血栓が、何かの拍子に血液に乗って脳へ飛び、脳の血管を閉塞させると、脳梗塞(脳塞栓)を生じます。
この脳梗塞(脳塞栓)のリスクは、基礎疾患や年齢によって異なるといわれております。現在では、心房細動の治療ガイドラインが作成されております。
これに従い治療を進めることになります。(詳しくは主治医にご相談ください)
心房細動の治療ですが、根本的に心房細動を停止するか、または、心房細動の停止が困難で、対症療法を行うかに分かれます。
議論の多いところではありますが、比較的発症期間の長い心房細動に有効な薬剤が今のところ少なく、
よって、心房細動を停止することができず、対症療法を行うことが多くなっております。
対症療法は、心拍数のコントロールや、心不全の治療、脳梗塞(脳塞栓)の予防などです。
心房細動のリズムコントロールですが、AFFIRM試験などで、レートコントロールとリズムコントロールとの間に、
心血管系の有害事象や死亡事故において差がないこと、入院や薬剤に用祝作用などは、逆にリズムコントロールで多いことなどから、
治療の中心はレートコントロールと心房細動に伴う心原生脳塞栓症の予防に主眼が来れるようになっております。
しかし、循環器専門医の間では、リズムコントロールを支持する意見も多数存在しています。
その理由は、リズムコントロールが悪いのでなく、上手にリズムコントロールを行える治療法、薬剤が存在しないためとのことです。
アブレーション療法の適応拡大や、今後の新規治療薬の出現次第では、やはりリズムコントロールが良い、となる可能性もございます。
リズムコントロールは、発作性心房細動で症状が強い場合に考慮せれます。
抗不整脈薬や治療法の選択は、心疾患、心不全、心肥大、心筋虚血などの有無により判断、選択します。
発作性心房細動の場合、Ⅰa群のシベノール(シベンゾリン)、リスモダン(ジソピラミド)、Ⅰc群のサンリズム(ピルジカイニド)、プロノン(プロパフェノン)、タンボコール(フレカイニド)等を用い、
無効例には、アンカロン(アミオダロン)や電気的除細動やアブレーション治療が考慮されます。
抗不整脈の有する各受容体の遮断作用から、発作のシチュエーションにより、各薬剤を使い分ける場合もございます。
例えば、交感神経が優位な時に発作が生じる場合は、β遮断作用が有るプロノン(プロパフェノン)、副交感神経優位な時に発作が生じつる場合は、抗コリン作用のあるシベノール(シベンゾリン)、リスモダン(ジソピラミド)等、です。
持続性心房細動の場合は、ベプリコール(ベプリジル)およびアスぺノン(アプリンジン)の併用、保険適応外ですが、ソタコール(ソタロール)、アンカロン(アミオダロン)が使用されます。
心不全合併心房細動例では、アンカロン(アミオダロン)を使用します。
また、トリガードアクティビティ(triggered activity)が原因と考えられる発作性心房細動例は、アブレーション治療の適応となります。
注意すべきは、ED治療薬と抗不整脈薬の飲み合わせです。
バイアグラは、アミオダロンとの併用が禁忌となっております。レビトラは、Ⅰa群の抗不整脈薬、アミオダロンとのの併用が禁忌となっております。シアリスは、現在のところ併用禁忌となる抗不整脈薬はございません。
心房細動のレートコントロールですが、どの程度の心拍数を目指すのが良いか議論が有りました。
RACEⅡと呼ばれる試験では、厳格なレートコントロール群(安静時心拍数80/min以下)と緩やかなレートコントロール群(安静時心拍数110/min以下)にいて、心血管イベントに差がなかったとしています。
ヨーロッパ心臓病学会のガイドラインでは、心房細動のレートコントロールは、、安静時心拍数を110/min以下となるよう、緩やかなレートコントロールが推奨されています。
この緩やかなレートコントロールで症状が持続し、頻脈誘発性心筋症が生じたときは、安静時心拍数を80/min、中等度運動時心拍数を110/minの厳格なレートコントロールが推奨されています。
アメリカの心房細動のガイドラインでも、緩やかなレートコントロールを採用していますが、症状がなく、心駆出率が40%以上と新機能が保たれている例が適応とされています。
ただ、まだまだ臨床データが不足しているため、今後のデータの蓄積次第によっては、この考え方も変わってくる可能性があります。
特に基礎疾患を持った心房細動例(僧帽弁狭窄症、大動脈弁狭窄症、高血圧性心肥大、肥大型心筋症など)では、
心房収縮(atrial kick)の欠如による心拍出量の低下などにより心不全を発症する可能性があること、
高心拍数は頻脈誘発性心筋症の原因となることから、
また、狭心症などの虚血性心疾患では、高心拍数から心筋虚血をきたす可能性が有ることから、厳格なコントロールが必要になる場合もあり、一概に、緩やかなレートコントロールが良いとは限りません。
レートコントロールに用いる薬剤ですが、WPW症候群を認めない場合ですが、心機能に応じβ遮断薬、非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬、ジゴキシンが用いられます。
低心機能例では、β遮断薬の導入、カルシウム拮抗薬の使用には注意が必要であり、腎機能障害例では、ジゴキシンを減量する必要があります。
WPW症候群の場合、Naチャンネル遮断薬を用いたり、アブレーションが適応となります。
本邦では、心不全に合併した心房細動例に対して、アミオダロン(経口)の適応が追加されました。心房細動の停止だけでなく、レートコントロールにもアミオダロンが使用される場合もあります。
心房細動は、頻脈になるとは限りません。心拍数が低下した、徐脈性の心房細動もございます。 この場合、何らかの症状を有する場合は、ペースメーカ治療の適応となります。プレタール(シロスタゾール)などで、心拍数を増加させようと試みることもございます。
心房細動にアブレーション治療が行われるようになり、心房細動の根治術が可能な時代になってきました。
2012年、アメリカの心房細動ガイドラインが改定され、アブレーション治療が、
クラスⅠで”治療すべきである”となりました。
ただし、これには条件が付いております。
『経験の多い施設(年何50例以上)で、適切な患者に行われれば有効である。症状のある発作性心房細動例で、薬物による治療が不成功で、かつ、重度の肺疾患を有さず、左房のサイズが正常もしくは経度の拡張か左室駆出率の低下が経度の場合、心房細動のカテーテル治療に有効である』。
つまり、経験の多い実績のある施設では、Okですよ、ということです。治療を受けるなら、専門施設を受診して下さいということです。
日本循環器学会のガイドラインも改定作業中とのことですので、おそらくは、アブレーション治療の適応拡大する方向になると思います。
心房細動に対するアブレーション治療の成功率ですが、施設により差はございますが、発作性心房細動で90%以上、慢性心房細動で70~80%の根治率と、成績は向上いたしております。
治療に伴う合併症は、発作性上室性頻拍症などのアブレーション治療と同様、非常に低率になってきています。
発作性心房細動の原因は、その多くが、肺静脈およびその近傍のトリガードアクティビティ(triggered activity)と考えられ、ここからの伝導をアブレーションに遮断することにより、心房細動の発症が抑制されます。
しかし、心房細動は、進行性疾患ともとらえられており、発作性から慢性心房細動へ、徐々に進行し、原因部位が、限局性でなく、心房全体に及ぶことが指摘されています。
このため、アブレーション治療を行う場合、早期の治療が有効とされています。
一般臨床医家で、心房細動がアブレーション治療の適応となることをご存じな方は、どの程度いるでしょうか?まだまだ、一般的ではない治療ですが、心房細動では、抗不整脈薬の服薬や抗凝固療法を行わなければならず、その負担は、小さくは有りません。
これら服薬、治療に伴う合併症の存在も無視できません。心房細動根治によって得られる利益は、測り知れません。
今後、アブレーション治療は適応拡大に進むことは、ほぼ、間違いないと思われます。
心房細動の治療ガイドラインにて、抗凝固療法を行うか否かを判断するのに、CHADS2スコアを用い、適応を判断することが進められています。
CHADS2スコアとは脳梗塞のリスクを層別し、この点数に応じて、抗凝固薬の適応を判断しようというものです。
CHADS2スコアは、
C:CongestiveHeartFailure うっ血性心不全
H:Hypertension 高血圧
A:Age 年齢
D:Diabetes Mellitus 糖尿病
S:Stroke 脳卒中または一過性脳虚血発作
です。各項目1点ですが、Sの脳卒中または一過性脳虚血発作は2点となっております。合計6点です。
CHAD2スコアが、1点以上で、プラザキサ(ダビガトラン)の適応、2点以上でワーファリンによる抗凝固療法の適応となります。
わが国では、抗血小板剤は、ワーファリンの投与ができない場合であっても、クラスⅡbとされています。
薬剤間で、適応となるCHADS2スコアが違うのは、薬剤の副作用と利益とを天秤にかけた結果と考えてください。
つまり、プラザキサ(ダビガトラン)の方が、副作用が少ないため、CHADS2スコア1点でも適応となります。
逆に、ワーファリンの場合、CHADS2スコアが1点の場合、副作用リスクと脳梗塞予防効果が打ち消しあってしまうため、適応がありません。
最近では、このCHADS2スコアを改良した、CHADS2-VAScスコアが、欧州心臓病学会から提案されています。
その理由は、心原生脳塞栓症を生じた心房細動例で、CHADS2スコア0点または1点の心房細動例が、3割程度占めていたからです。
このことから、CHADS2スコアを、より細分化して評価する必要性があり、CHADS2-VAScスコアが提案されるに至っています。
CHADS2-VAScスコアは、今までのCHADS2スコアのA:Age年齢をA(65-74歳)とA2(75歳以上)に分け、
さらに、V:VascularDisease血管疾患、Sc:SexCategory性別(女性)を加えた、合計9点で評価しようとするものです。
CHADS2スコア同様2点以上で、ワーファリンの適応としています。
C:CongestiveHeartFailure うっ血性心不全
H:Hypertension 高血圧
A:Age 年齢 A(65-74歳)とA2(75歳以上)
D:Diabetes Mellitus 糖尿病
S:Stroke 脳卒中または一過性脳虚血発作 (2点)
V:VascularDisease 血管疾患
Sc:SexCategory 性別(女性)
外国のガイドラインに目を向けると、欧州心臓病学会のガイドラインでは、CHADS2-VASc0点には無投薬またはアスピリン、
1点には抗凝固療法、つまりワーファリンやプラザキサ(ダビガトラン)が推奨されています。
(追記的に、0点は無投薬、1点は抗凝固療法が推奨されています)
カナダ心臓血管協会のガイドラインでは、CHADS2-VASc0点にアスピリンを、
1点にワーファリンまたはプラザキサ(ダビガトラン)また、アスピリンで代替として可能とし、
2点以上でワーファリン、プラザキサ(ダビガトラン)を強く推奨としています。
また、抗凝固療法には、出血のリスクが伴いますが、それをスコア化し、評価しようとする動きもあります。
HAS-BLEDスコアが、それにあたります。
HAS-BLEDスコアは、
HAS-BLEDスコアは、合計9点になります。
出血のリスクは、HAS-BLEDスコア0点で1%前後。1点で2-4%、3点で4-6%以上とされています。日本人は、欧米人に比較し、出血のリスクが高めです。
このまま鵜呑みにするわけにはいきませんが、HAS-BLEDスコアは、治療の参考になります。
お気づきの方もいらっしゃると思いますが、このHAS-BLEDスコアとCHADS2スコアおよびCHADS2-VAScスコアは、オーバーラップしている項目がございます。
数年前ですが、心房細動のアップストリーム療法というものが、盛んに議論され、治療法として取り入れられていたことがございました。
心房細動の大本となる原因(上流:アップストリーム)に対して治療しようという考えです。
(これに対し、すでに発生している心房細動を抗不整脈薬などで治療することをダウンストリーム療法と言います。)
アップストリーム治療の候補となった薬剤は、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系薬剤と、脂質異常症治療薬のスタチン、不飽和脂肪酸などです。
レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系薬剤(アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)とアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)
まず、候補に挙がったのは、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系薬剤(アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)とアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB))です。
心房細動の新規発症予防効果(一次予防)と再発予防効果(二次予防)を明らかにしようと、様々な大規模臨床試験が行われています。さらにこのメタ解析も発表されています。
これによると、アンジオテンシン変換酵素阻害剤(ACE阻害剤)とアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)は、心不全例や除細動例で予防効果を認めましたが、高血圧例や心筋梗塞後例では、予防効果が認められませんでした。
ヨーロッパ心臓病学会のガイドラインでは、このアップストリーム用法は、心不全例(低心機能例)t高血圧例(特に左室肥大例)では、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系薬剤(アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)とアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB))による心房細動の一次予防はクラスⅡa、二次予防はクラスⅡbとしています。
基礎疾患を持たない孤発令では、クラスⅢとされ、推奨されていません。
スタチン(脂質異常症治療薬)
次に注目されたのは、脂質異常症治療薬のスタチンです。このスタチンと呼ばれる一群の治療薬ですが、強力にコレステロールを低下させる作用のほか、
抗動脈硬化作用、プラーク安定化作用、抗炎症作用、自律神経調整作用など、様々な効果が指摘されています(pleiotropic effectと言います)。
心房細動発症に、炎症が関与していると考えられており、スタチンの効果が期待されました。
実際に大規模臨床試験の結果などで、有効性が指摘されたのは、心臓手術など炎症が強い状況下でした。
ヨーロッパ心臓病学会のガイドラインでは、心臓手術時の心房細動新規発症予防(一次予防)に対しクラスⅡaとし、器質的心疾患例(特に心不全例)では、クラスⅡbとなっています。
ω-3不飽和脂肪酸
不飽和脂肪酸は、魚脂であるドコサヘキサ塩酸(DHA)、エイコサペンタ塩酸(EPA)などのω-3不飽和脂肪酸をさします。
これらω-3不飽和脂肪酸は、抗炎症作用や抗酸化作用を有しているとされます。また、細胞膜のイオンチャンネルに直接作用し、抗不整脈作用を発揮すると考えられました。
このω-3不飽和脂肪酸ですが、動物実験では、抗心房細動効果が認められましたが、臨床試験では、否定的な結果が多くを占めています。
同様に、魚の摂取量と心房細動の発生率の間にも、関連が認められていません。
ω-3不飽和脂肪酸は、いまのところ、否定的な結果となっております。
話題をEDに関するものに致します。
心房細動を罹患しているからといて、必ずしもED治療薬が使用できないわけではございません。
ただ、併用薬剤のチェックは欠くことはできません。たとえば、抗不整脈薬を服用中の場合、
お薬によっては、一部のED治療薬の服用ができない場合もございます。
必ずしもバイアグラ、レビトラ、シアリスが服用できないわけではございません。
肥大型心筋症に伴う心房細動の場合、バイアグラ等のED治療薬にて不整脈の発作が生じる可能性があるため、この場合は、使用を控えるようにされています。
これは、専門的な知識が必要になりますので、ED治療に精通した医師に相談してください。もちろん、私たち池袋スカイクリニックでもご相談は可能です。